創作

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憂鬱だ。
近年稀にみる、この上ないほどに憂鬱だ。
大きく深い溜息を吐き、願わくばこの沈んだ心も吐き出せぬものかと思ってみる。

なぜ俺は今こんなにも愁いているのか。
答えは簡単、俺の癒しの空間こと、寮の1人部屋が今日で無くなってしまうからだ。
無くなってしまうと言うと語弊があるか、正確には、今日から2人部屋になってしまうのである。
今年の新入生は学校側が予想していた人数を大幅に超えてしまい、寮の空き部屋が足りなくなってしまったのだ。
せっかく寮生全員によるじゃんけん大会に勝利してもぎ取った1人部屋だというのに、こんなにもあっさりと勝利の栄光を奪われるとは。

しかも同室になるのは端数で余った新入生、つまり後輩である。
同学年なら気を使わずに済むしまだいいものの、後輩ともなるとそうもいかない。
同じ場所、同じ空間に自分以外の誰かがいるだけでなんとなく気を使ってしまう。それが俺の性分なのだから。
先輩でなかっただけましか、と自分を慰めるしか俺に道は残されていなかった。

段ボールを抱えた、まだ中学生の初々しさののこる新入生。昨日PS2を踏み壊したとか言っていた馬鹿のくせに、後輩の前ではできる先輩ぶる同級生。
人の波を掻い潜り、重い足取りで自分の部屋へ向かう。
まずは部屋に戻って軽く掃除をしよう。1人部屋だと思いついつい気が緩んで、汚い部屋のままで放置してある。
その後はなるべく動きやすい服装に着替える。おそらく新入生の荷物整理などの手伝いをすることになるだろうから。
掃除が終わることには昼食の時間だろう。食材が残っていたかも確認しなければ。

やらねばならないことが多すぎる。
何もしていないのに疲れた気分だ。そう考えながら、いつもより重く感じるドアノブを捻りドアを引くと。

「あ、はじめまして先輩。僕、白元美鶴っていいます。よろしくお願いしますね」

どうやら部屋を間違えたようだ。
何事もなかったかのように俺は扉を閉じた。見ていない、俺は何も見ていない。
自分を落ち着かせるように数回首を振り、恐る恐る部屋番号を確認する。
まぎれもない、俺の部屋だった。

「先輩なんで閉めちゃうんですか?酷いじゃないですか」
「あ、ごめん…。じゃなくて、君はなんでここにいるの?ここ俺の部屋だったと思うんだけど…。」
「はい、速水遼先輩ですよね?ここは先輩の部屋であってますよ僕と先輩の部屋で間違いはありません」

願わくば否定してほしい、部屋間違えてましたとか言ってほしい。
俺の願いはあっけなく見放されてしまったようだ。
有無を言わさぬといった笑みでこちらを見てくる彼に、俺はもう何も言い返せなかった。
笑顔を作ろうとするも、苦笑いしか浮かんでこないこの表情筋が憎い。

「えーっと、白元?部屋番号どうやって知ったんだ?誰かに聞いた?」
「友達の同室の先輩に聞いたら教えてくれました」
「じゃあ、鍵は?どうやって開けた?」
「テヘペロ」



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