ぼくらのうた

□夕焼け小焼けとサツマイモ
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少し肌寒くなってくるこの時期。
季節の変わり目というのは体調を崩しやすくてどうもいけない。
乾燥した喉に触れる空気を吐き出すように、口元を隠し咳払いをした。

「蘭ちゃん風邪?大丈夫?」

並んで歩く彰が、心配なんてかけらもしていないような口調でたずねてくる。
身長差があるせいでパタパタと脚だけ忙しなく動かす彰をみて、少し速度を落とす。

「いや、ちょっと乾燥してただけ。季節の変わり目ってのはどうもな…」
「それが風邪っていうんじゃないの?」

違うの?
不服そうに少しほっぺを膨らませてそう言った彰は、本当に高校生かと疑いたくなる幼さだ。
天下無敵の傍若無人、かと思いきや人見知りの内弁慶。
どこの小学生だってんだ。
すぐ拗ねるし、表情だってコロコロ変わるし。
最終手段は泣き落しだし。それに毎度毎度引っかかってやる俺は本当に人がいいと思う。
誰かノーベル善人賞とか作ろうぜ。
それに目を離すとすぐどこかに行ってしまうから、油断の隙もない。
ちらと横目で彰を見ると、
例の如く、やつはそこにはいなかった。

――――ああ、そろそろそんな季節か。
何度も経験したせいか、今更慌てる気にもなれない。
溜息をひとつ吐いて辺りを見回せば、公園を挟んだ向こうにこの季節よく見るワゴン車が停車している。
おそらくあいつもそこにいるだろう。
仕方なしに公園を横切り、向こう側の道路へ向かう。
途中子供がドッヂボールのコートに使用していたであろう溝を踏み消してしまったが、この際放っておく。
そこ、ひどいとか言うんじゃねぇよ。
こっちもいろいろ忙しいんだ。

「…何やってんだ」
「む!もんふぉん!」
「何言ってんのかわかんねぇよ」

行ってみれば、美味そうな匂いの焼きイモのワゴン車と幸せそうな笑みを浮かべた彰。
腕にはちぎれそうなほどに焼きイモをつめた袋を抱えている。
湯気が上がっていかにも熱そうな焼きイモを必死に頬張る彰の顔は、幸せそうに緩んでいた。

毎年、といってもこいつに出会ったのは去年のことなんだけども。
季節の変わり目になると、必ず帰り道にフッと消えて何かを食べているんだ。それもほぼ毎日。
去年の春は桜餅、夏はソフトクリーム、秋は甘栗、冬は公園で会ったおばあちゃんに毎日のように蜜柑を分けてもらっていた。
人見知りのくせに、お年寄りと子供には好かれる、妙なやつ。

そうこうしている間に、彰は2本目のイモに突入したようだ。
一体その袋には何本入っているんだろうか、そして全部1人で食べる気なんだろうか…。
季節はすっかり秋である。


だって食欲の秋だから
(そして俺にも分けてやろうとか、少しは考えないのだろうか)

お題配布元:徒の日


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