「龍也は私の後輩でな。後輩といっても5年後の後輩だ。あいつは馬鹿みたいに正義感が強くて、本当に毎日ひやひやさせられた。」 「へぇ、意外ですね。先生とお父さんにも繋がりがあったなんて。」 「でもあいつの友達なんてあの監督くらいしか知らなくてな。そこもひやひやしていた。」 先生は知っている限りの事を話してくれた。 お父さん実はハーフだったこと。スペインにいた時期が長くて、帰ったときに日本語を忘れていたこと。日本での交通ルールさえ忘れて事故を起こし、それで先生のお世話になったこと。 そこで驚異的自然治癒力に気付いたと言っていた。でも理由はそれだけではなかった。 「あいつが、悪いことに首を突っ込んでいるのも知っていた。あの時、お前と同じように足首を撃たれたんだ。」 「はぁ、親子揃って情けないですね。」 「私はお前たちを見てきて情けないと思っている。」 「そうですか」 先生は表情を曇らせてしゃべり続けた。 「龍也の死も、娘の事故も、全てサッカーが原因で起こっていた。だから今度は修也を失うんじゃないかと思うと恐ろしい。」 なんだ、そういうことだったんだ。 「だから、私はサッカーより、人の命を救う仕事に就いてもらいたいと思っていた。」 先生は私のユニフォームを見て呟いた。 「私は、サッカーで傷つくはずのない傷を癒すのはもう嫌なんだ。娘も、修也も。…………」 「先生」 先生は顔を上げた。 「修也さんは、そんなヤワな人間じゃないって、貴方が一番良くわかってるじゃないですか。心配してしまうのは、親の役目ですが、信じるのも親の役目です。その両立はとても難しいことだと思います。ですが、今回は修也さんを信じてください。」 「…………」 「心配しないでください。信じてあげてください。」 「………」 先生はハァ、と溜め息をついて立ち上がった。 「まさか、お前にも言われるとはな。」 そう言って部屋から出ていった。 . |