「黒田しろだね。」 「「!?」」 突然名前を呼ばれ、しろと飛鷹は立ち上がって背後を睨む。 「誰だ」 「会えるのを楽しみにしていたよ。」 「…あなた、誰ですか。」 暗闇から姿を表したのは、真夏だというのにも関わらず、黒いコートに黒いシルクハット。黒いステッキを弄びながら近付いてきた。 星明かりに照らされ、辛うじて見えた男の顔は蒼白で、不気味な笑顔を貼り付けていた。 「そう構えなくていいよ。別に戦いに来たわけじゃない。」 ねちねちとした粘着質な喋り方。二人は鳥肌が立つ思いで彼を睨んだ。 「今日は、話をしにきた」 「話?」 「フフ。何故、君が日本代表に選ばれたか、だよ」 男はしろにステッキの先を向けた。 「薄々予想はしていましたよ。何故女子選手として正式に代表入りしているかですね?」 「御名答。御察しのとおりだ。」 男はふらふらと歩き回る。体を男に向け、背中を見せないように二人は身構える。どちらも同じ様な佇まいなのは、両方足技が強いからだ。 「余計な前振りを省いて言えば…君の命は狙われている。まぁそのうち」 “殺される” 「なっ…馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!」 「馬鹿なこと?これは真実だ。黒田しろが何故選ばれたか?それは我々の思惑通りなのだ!あえて他の国でも女子選手を採用させ、怪しまれないように綿密に計画を練ってきたのだ!君は命を捧げるために、選ばれたのだよ!!」 高笑いをする男。飛鷹が足を動かすと、しろがその足を止め、前に一歩出た。 男は高笑いを止めてしろを睨む。 「それは、“ガ”のつく彼の、目論見でしょう?」 「なっ…!何故ガルシルド様をっ!?」 男はつかつかとしろに歩み寄り、胸倉をがっちり掴んで引き上げる。 「しろを離せ!!」 「飛鷹さん!!」 左手を広げ、飛鷹が近付かないように止めるしろ。 「今、確信しましたよ。そのガルシルドって人の手下が、私のお父さんとお母さんを殺して、記憶を消したんでしょう?」 「っ…」 「私の記憶を消して、計画の邪魔をさせないようにしたんでしょう。サッカーを忘れさせ、サッカーから切り離して。龍也の娘の兵器的な力が怖いんでしょう?“神の力作”が!怖いんでしょう!」 「っ……!!クソっ!!」 男は乱暴にしろを突き飛ばした。 それを飛鷹が受け止める。 「大丈夫か。」 「はい。」 「まさか記憶が戻っていたとはな!!だが計画は邪魔させない!」 男はそう言って、この高い場所から下へ落ちていった。 飛鷹はしろを抱き締めた。 . |