pure

□16
2ページ/3ページ



練習が終わり、シャワーを浴びて部屋に戻ってスマホをいじる。メールが来ていた。

To:響木さん
件名:
本文:

今日発作が起きて病院へ行った。もしかすると手術を受けることになるかもしれない。
皆を頼んだぞ。


カタン、と音を立ててスマホが落ちる。
病気だとは聞いていた。それで監督を降りることも知っていた。でも手術するなんて聞いてなかった。

スマホを取り上げ、走って下へ降りた。


「ん、あれ黒田ー?」

ちょうど通りかかった綱海さんが声をかけてきた。
バッとそっちを見ると、涙がキラリと溢れたのに気付いた。あれ、泣いてる。
そう思った瞬間綱海さんが駆け寄ってきた。

「おいっ、どうした!?なんかあったのか!?」

―皆には言わないで欲しい
響木さんの言葉が頭に過ぎる。するとぶわっと涙が込み上げてきた。

「どうしたんだよ、」
「急用ですっ…行ってきますっ」
「あ、おい黒田!!」

私は靴を履き替えて合宿所を飛び出した。体がついて行けないほど足が速く回転する。途中何度も転けそうになる。でも走り続けた。
走ってたどり着いたのは雷雷軒。裏口のチャイムを鳴らして響木さんが出るのを待った。

ガチャン、と鍵が開く音がして、扉が開いた瞬間、更に涙が溢れてきた。

「しろ…」
「っぐ、えっ…なんでっ…」

嗚咽混じりに涙を拭いながら喋る。これは喋れているんだろうか。
もう自分で言ってることが分からない。とりあえずびっくりして悲しくてで脳みそがぐちゃぐちゃになっていた。
ぎゃあぎゃあ泣いていると響木さんの大きな手が頭に乗った。自然と涙が止まった。

「大丈夫。俺は死なない。」
「っ、ひっく、」

こくこくと頷く。何に頷いてるんだ。
今日はもう帰れ、と言われ、途中まで見送ってくれた。
響木さんが見えなくなったところで振り返る。響木さんが居ない、と思ってしまってまた泣き出してしまった。
イナズマジャパンに入ってから泣きっぱなしじゃないか。

迷子の子供のように泣きながら歩いていると、誰か走っている音が聞こえた。だんだんこっちに近付いてくる。

「黒田!」
「綱海さぇぇぇえええん」
「お、お、おい、え?」

我ながらびっくりだが、走って近付いてきた綱海さんを見て号泣してしまった。綱海さんは若干パニックに陥っていた。

「いきなり飛び出してったから探したんだぞ。自殺するのかと思った。」
「うわぁぁぁああん」
「…帰るか。」

綱海さんは右手を差し出してきてくれた。その手を左手で握って一緒に歩いた。
ずっと泣いている私を気遣って、ゆっくり歩いてくれる綱海さん。もう泣きすぎて苦しい。
や、やば、苦しい。苦しい。おい苦しい。

「おい黒田…?」
「っ、っ、っは、」
「黒田!?」

呼吸困難ですね。はい。手を繋いだ綱海さん側に倒れた。綱海さんは受け止めてくれた。

「黒田!大丈夫か!?」
「っ、っくる、し…っはぐっ」
「は!?おい、過呼吸!?え、人工呼吸したほうが…あ、待ってろ、合宿所まで耐えろよ、気失ったら最後だぞ!!」

綱海さんは軽々と私を抱え上げると、ダッシュした。車にでも乗っているかと思うくらい早かった。
合宿所の明かりが見えて、視界がボヤけた。ああ、まずい。苦しい。

「黒田!しっかりしろ!」
「っ………っ」

ぎゅう、と綱海さんのジャージを握る。手のひらの傷に障って血が出てきた。

綱海さんは土足のまま走って食堂へ向かった。
ドアを開いた瞬間意識を失った。

こんなに意識を失うのなんてハ●ー・ポッターしかいないと思っていた。
私もだった。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]