その夜、しろの携帯電話が鳴った7時を少し過ぎた頃。丁度その時風呂に入ろうと服を脱いでいたしろは、「誰だよこんな時間に非常識な奴め!」とブツブツ言いながら携帯の通話ボタンをタッチした。 こんな時間でもなんでもないが、轢かれたわ説教されるわで少しピリピリしていた彼女は、居留守でも使おうと無駄な抵抗を試みた。 「もすもす、おらぁしろのつつおやだっけぢょもぉ」 『無駄な抵抗をするな。』 「なーんだ。響木さんでしたかー。どうしましたこんな時間に。」 『ああ、練習相手になってもらいたい奴がいるんだけどな…今から来れないか?』 「んー…今からそっちへ行くんですか?」 『ああ。俺はまだ仕事があるから相手をしてやれないんだ。』 しろは、話が長くなると思い、下着の上に直接ジャージを来て家を出た。自転車を使おうとしたが、生憎先程の事故で天国へ逝ってしまったため、走るしかなかった。 『なかなか難しい奴でな。』 「響木さん、今から行きますので。」 『あ?ああ、頼んだぞ』 体力はまだまだ有り余っていたので、全力疾走で雷雷軒へ向かった。 端から見れば過激なトレーニングだと見えるその走りで約1分足らず。(距離が短かったため)雷雷軒に着いた。店に入ると、客で一杯だった。響木さんは私に気付くと、「裏に居る」と言った。 店を出て裏の空き地へ行くと、今日呼ばれたメンバーで、綱海曰くノリの悪い奴、が、空中を蹴って居た。 「あのー…」 「っはぁ、……お前…」 彼はしろに敵意の眼差しを向けた。しろは一瞬びくついて苦笑いをすると、彼は驚いて目を見開いた。 「悪い、響木さんが呼んだのってお前だったのか…」 「あはは、すみません。私の名前聞いてませんよね。私は黒田しろです。はじめまして」 しろが担いできたサッカーボールを地面に下ろすと、彼はしろに向き合った。 「しろか。俺は飛鷹征矢。」 「なっ…なまっ…」 「…?」 顔と正確に似合わず、照れやすいしろは、異性に初めて名前で呼ばれたことに顔を赤くしてショートしていた。 だが相手はどうも思っていない様子だったので、頑張って会話することにした。 「とびっ、飛鷹さんは、聞いたところによるとサッカー経験はゼロだと…」 「ああ。なんだか、よくわからないまま響木さんに呼ばれてな。練習っつったってただ蹴りを変えろってだけで、ボールなんて蹴らせてもらえねぇんだ。」 しょんぼり言う飛鷹に、母性本能が反応してしまったのか、胸が締め付けられた。 「そ、そうなんすか…あ、じゃあ試しに蹴りを見せてくださいよ」 「?ああ。」 飛鷹はその場の空を足で切り裂いた。すると突風にも似た風がしろの頬を掠める。 飛鷹は「どうだ?」としろを見るが、しろはポカーンとして虚空を見つめていた 「…しろ?」 「へっ、ああ、すごいですよ飛鷹さんっ!なんすかその脚力!きっとサッカーに活かせます!フォルムは喧嘩の蹴りですけど!私がサッカーの蹴りを教えます!一緒に世界目指しましょー!!」 しろは飛鷹の手を握ってその場でぴょんぴょんした。その光景を、雷雷軒から顔を出した響木が見ていた。 「お前の脚力も異常だがな…」 . |