pure

□02
3ページ/5ページ



その夜、しろの携帯電話が鳴った7時を少し過ぎた頃。丁度その時風呂に入ろうと服を脱いでいたしろは、「誰だよこんな時間に非常識な奴め!」とブツブツ言いながら携帯の通話ボタンをタッチした。
こんな時間でもなんでもないが、轢かれたわ説教されるわで少しピリピリしていた彼女は、居留守でも使おうと無駄な抵抗を試みた。

「もすもす、おらぁしろのつつおやだっけぢょもぉ」
『無駄な抵抗をするな。』
「なーんだ。響木さんでしたかー。どうしましたこんな時間に。」
『ああ、練習相手になってもらいたい奴がいるんだけどな…今から来れないか?』
「んー…今からそっちへ行くんですか?」
『ああ。俺はまだ仕事があるから相手をしてやれないんだ。』

しろは、話が長くなると思い、下着の上に直接ジャージを来て家を出た。自転車を使おうとしたが、生憎先程の事故で天国へ逝ってしまったため、走るしかなかった。

『なかなか難しい奴でな。』
「響木さん、今から行きますので。」
『あ?ああ、頼んだぞ』

体力はまだまだ有り余っていたので、全力疾走で雷雷軒へ向かった。
端から見れば過激なトレーニングだと見えるその走りで約1分足らず。(距離が短かったため)雷雷軒に着いた。店に入ると、客で一杯だった。響木さんは私に気付くと、「裏に居る」と言った。
店を出て裏の空き地へ行くと、今日呼ばれたメンバーで、綱海曰くノリの悪い奴、が、空中を蹴って居た。

「あのー…」
「っはぁ、……お前…」

彼はしろに敵意の眼差しを向けた。しろは一瞬びくついて苦笑いをすると、彼は驚いて目を見開いた。

「悪い、響木さんが呼んだのってお前だったのか…」
「あはは、すみません。私の名前聞いてませんよね。私は黒田しろです。はじめまして」

しろが担いできたサッカーボールを地面に下ろすと、彼はしろに向き合った。

「しろか。俺は飛鷹征矢。」
「なっ…なまっ…」
「…?」

顔と正確に似合わず、照れやすいしろは、異性に初めて名前で呼ばれたことに顔を赤くしてショートしていた。
だが相手はどうも思っていない様子だったので、頑張って会話することにした。

「とびっ、飛鷹さんは、聞いたところによるとサッカー経験はゼロだと…」
「ああ。なんだか、よくわからないまま響木さんに呼ばれてな。練習っつったってただ蹴りを変えろってだけで、ボールなんて蹴らせてもらえねぇんだ。」

しょんぼり言う飛鷹に、母性本能が反応してしまったのか、胸が締め付けられた。

「そ、そうなんすか…あ、じゃあ試しに蹴りを見せてくださいよ」
「?ああ。」

飛鷹はその場の空を足で切り裂いた。すると突風にも似た風がしろの頬を掠める。
飛鷹は「どうだ?」としろを見るが、しろはポカーンとして虚空を見つめていた

「…しろ?」
「へっ、ああ、すごいですよ飛鷹さんっ!なんすかその脚力!きっとサッカーに活かせます!フォルムは喧嘩の蹴りですけど!私がサッカーの蹴りを教えます!一緒に世界目指しましょー!!」

しろは飛鷹の手を握ってその場でぴょんぴょんした。その光景を、雷雷軒から顔を出した響木が見ていた。

「お前の脚力も異常だがな…」



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]