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「あー恥ずかしい。」と言って自転車を全力で漕ぐ。こんな時に事故に遭うんだ、と心の中で考えていたが、それよりも何なんだあのライオン男は、と顔が火照る。
坂道を全力で上がると、同時にトラックに撥ねられた。
けたたましい音と共に、トラックのバンパーが凹んだ。

その道路の向こう側から、もう一台の車が走ってきて運転手が降りてきた

「しろ!!」

久遠は焦った顔で事故の現場へ向かう。
トラックの運転手もその場で慌ててトラックを停め、降りてきた。
自転車はボロボロで、道路には血痕があった。

だがしろがその場に立っていた。
しろは久遠に気付くと、走って逃げていった。

「あ、オイしろ!!」
「あの、娘さんでしたか!?済みません!私の不注意で!」
「貴方が悪いんじゃありません。うちの馬鹿娘が悪いんです!」

久遠は車に駆け込んでアクセルを踏んだ。
助手席に座っていた冬花が心配そうな顔で久遠を見た

「お父さん、事故って…」
「安心しろ、しろだから」
「(安心しろって…)」

冬花は一瞬驚いたが、「確かにそうだ」と思ってホッと溜め息をついた。
だが久遠は焦っている。道路には血痕が落ちていたのだ。怪我をしているかもしれない。いやしているんだ。無理してあんな爆走すれば怪我が悪化する可能性がある。しかもあんなに自転車がボロボロだったのに何故走れるんだろうか。
昔から丈夫なやつだとは思っていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。
スピード違反になりそうなギリギリの速度でしろを探した。

「…あっ、お父さん!」
「いたか?」
「アレ!」

見ると、家に向かうしろの姿があった。久遠の予想通り、足を怪我していた。
久遠が追い付いた頃、しろは玄関の鍵を開けようとしていた。

「しろ!」
「うわーっ、見つかった!」
「冬花、行って捕まえろ」
「うん!」
「捕まえろって…」

冬花が車から降り、しろの腕を掴むと、久遠も車を降りてきた。

「しろ、」
「はい…」
「取り敢えず家に入れ」
「はい…」

しろは人の家に何様のつもりだ、とむくれたが、大人しく家に入った。
リビングのソファーに座らされ、頭を叩かれた。

「言っておく」
「痛いよ。」
「お前は馬鹿だ。」
「知ってます。」
「そして無駄に脚力がある。」
「知ってます。」
「いくら蹴ってバンパーを凹ましたとしても、逃げることはないだろう。」
「だって、傷害罪とかに…」
「もしそうだとしても、加害者はお前じゃなく、あの運転手だ。」

久遠に説教を受けている間、冬花には手当をしてもらっていた。

「幸いお前の回復力は異常だ。」
「幸いなのに異常っておかしいじゃないすか」
「うるさい。明日は俺が練習つけるから7時30分に迎えに来る。」
「冬花は?」

キラキラした目で久遠を見ると、久遠は冬花に目をやった。すると冬花は嬉しそうに頷いて「行くよ」と言った。

「お前は冬花が居ないと何もできないのか」
「冬花が居ればもっと頑張れるからでーす。」
「はぁ。」

久遠の溜め息と冬花の「できた!」という声が重なり、しろはニッコリ笑った。

「ありがとう冬花、久遠さん」
「しろお大事に。」
「傷が浅いのが異常だな。」
「異常って言わなさんな。」

二人を玄関まで見送ると、最後に久遠が口角を上げた。

「なんすか」
「いや。風呂に入るときはそれはがして、上がったら貼り直せよ」
「……風呂のこと考えてにやにや「違う」」

久遠はしろの頭を叩くと、玄関を出ていった。

「…畜生。」

しろは、久遠が自分の子供のように大切にしていることをまだ知らなかった。


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