pure

□08
1ページ/5ページ



夕日の中、宇都宮くんの元気な声が響く。毎日お疲れ様ですな。
自分も合宿所に帰ろうとした時、彼に呼び止められる。

「黒田さん」
「?はい、なんでしょう」
「少し、お話いいですか?」

若干ビビリ気味に声を掛けてきた宇都宮君。いいよ、と笑顔で答えると、グラウンドの端っこに案内され、二人で土手に座った。

「なんで、俺のこと知ってるんですか。」
「朝ランニングしてるとき、仕込みやってたの君でしょ。小さいのにえらいなー、とか思って見てました。」
「それだけ、ですか?」

意味深な表情で彼は私を見る。

「近所の花屋で…」
「あはは、バレてました?」
「やっぱり黒田さんでしたか。」
「はい。ほぼ毎日、宇都宮くんを見かけてました」

呼びにくいので虎丸でいいですよ、と言われて虎丸くん、と言ってみた。彼はちょっと笑った。

「昨日、俺に言ったことなんですけど…」
「ごめん、傷つけちゃいましたか?」
「いえ、俺、サッカーもやりたいけど、お母さんの店も手伝わなきゃだし、迷ってたんです。でも黒田さんが言ってくれたおかげで、道が見えた気がしました。」
「そっか、力になれたなら嬉しい限りです。」

そう言ってどちらともなく立ち上がった。

「じゃあ俺、行きます」
「うん、練習お疲れ様でした。」

虎丸くんは頭を下げて走り出した。私もちょっと安心して歩き出そうとしたけど、また呼び止められる。

「はい?」
「辛かったりしたら、俺が話聞きますから!!」

こんなとき、きょとんって言葉がベストなんだろう。きょとんとしていると、虎丸くんは顔を真っ赤にしてダッシュで逃げていった。

これが私のスキル“独特なオーラ”なんだろうか。
ダーティーな過去や生活をしている子供が集まってくる、みたいなもんだろうか…


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]