おかえりなさい(完結)

□8#おかえりなさい
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 私がこんなことを言うのが珍しいからか、影から覗いていた皆が吃驚しているのが伝わってきて、恥ずかしい。
 でも、顔を隠さずに、私は皆の見回した。

「私はどんな時でもこの場所で、皆に、おかえりなさい、を言いたい」

 だから、と笑う私は彼らの目にどう写っているのかわからないけど、こんな些細な夢が叶うなら、少しぐらいはワガママを言ってもいいかもしれない。

「皆じゃなくてもいいんだぞ、美緒」
「むしろ俺だけにっ」
「あはは、七松君、この場所だから意味があるんじゃん」

 誰かが意味を聞いてくるのに、私は笑ってこたえた。

「ここは山田さんが来てくれるからねっ!」

 あれ、なんで皆で脱力してるのかな。
 ものすごく失礼だ。

「ちょっと、ここは重要な所だよ!?
 テストに出るんだからねっ!」

 あれー、ツッコミが返ってこないなー。

「……最大の敵が山田先生とか、最恐すぎる……」
「……美緒はなんであんなに趣味が悪いんだ……」

 遠くで失礼なことを言ってるのは誰だろう。
 少なくとも一人ではない。

「ふっ、ふふふふふ」

 私の笑いを聞いた付き合いの長い六人が一斉に顔を青ざめさせた。

「ちょっと、アンタたち、そこに正座しなさい。
 私が山田さんの魅力について詳細に語ってあげるから」
「おお落ち着け、美緒」
「話せば分かるっ」
「わかってないのは、アンタたちでしょうがっ!」

 六人を追い掛け回し始めた私は、木の影で利吉さんと鉢屋が話をしていたことに気が付かなかった。

「……アンタも苦労しますね」
「君もね」
「でも、私は引く気ないですから」
「ああ、俺もだ」

 そんな会話がされているとも知らず、私は息が切れるまで六人を追い掛け回したのだった。

 当然、追いつけないのはわかっていたけど、悔しいは悔しい。

「くっ、後で覚えてなさいよ!」
「美緒、それは悪役のセリフだぞ」
「誰のせいだと……っ」

 へとへとになって歩けなくなった私は、結局善法寺の手で担がれて、布団に戻されたのだった。

 お姫様抱っこにしてもらえばよかっただろうかとも考えたが、ろくな事にならない予感がしたので、とりあえず口にしないでよかった。

「じゃあ、次は私がお姫様抱っことやらで運んでやろう」
「ごめんなさい、やめてください、立花様ー」




(完)
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