おかえりなさい(完結)

□5#五年生は過保護です
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「……鉢屋」
「利吉さんと料理とどういう関係があるんだ、美緒」
「今日、泊まりに行くことになってるだけだよ。
 山田さんの奥さんが南蛮料理を食べたいからって」
「ええっ?」

 ぐいと正面から両手を握られ、私はそちらに顔を向ける。
 いるのは久々知君だ。

「泊まりって、美緒さんひとりでか!?」
「へ?」
「悪いことは言わない。
 山田利吉はやめとけ、美緒」
「んん?」
「料理ならここで作って持って行かせればいいじゃん。
 美緒ちゃんがわざわざ行くことないって」
「……なによ、みんなして」

 久々知君、鉢屋、不破君の順に、口々に止めようとする面々に、私はなんだか腹が立ってくる。

「竹谷君と尾浜君も同じ意見なの?」
「え、俺?」

 竹谷八左ヱ門君が戸惑う声を上げ、尾浜君が何かを言う前に、私は言葉を続ける。

「正直ね、ちょっと考えちゃってはいるの。
 いくら山田さんの息子だからって、そんなホイホイ話に乗るのはどうかなーって。
 もしもの場合泣きをみるのは女の私だけだし。
 それに、何より山田さんにご迷惑はかけたくないし」

 うん、とひとつ頷き、私は彼らに向けて、ニッコリと笑う。

「うん、やっぱり嫁入り前の娘が外泊なんてダメよね。
 よし、じゃあ作り方でも書いて利吉さんに渡そうっと」

 そうしましょうと私が手を打ち鳴らすと、何故か全員が脱力してため息を吐いた。

「泊まりにいかないのはいいとして」
「山田先生以外眼中にないってのはどうなんだ?」

 何を話しているのだろうか。

 目頭を押さえて、ぐりぐりと押す。
 腫れぼったさも引いているし、もう大丈夫だろう。

「美緒、ちゃんと利吉さんに断れると思うか?」
「無理だと思う」
「ちょっと、それどういう意味?」

 私が強く言い返すと、全員が一呼吸置いて、溜息をつく。
 なんて、失礼な。

「断ることぐらいできますーっ」
「無理無理」
「絶対無理」

 まったく取り合ってくれない彼らを前に私は拳を握りしめる。

「貴方たちね、少しは私を信用しなさいよっ!」

 私の目の前で互いに顔を見合わせる彼らは全員私の一つ下だ。
 それらなのに、なんでまたこんな小さい子にされるような心配をされなきゃならないのだ。

「信用はしてるけど」
「それとこれは別だよな」
「だな」

 どうみても信用していないではないか、という抗議を私が口にする前に、彼らの空気が緊張感を増した。
 肌を刺す視線は私の後ろに注がれている。

 不思議に思った私が振り返るも、そこには誰もいない。
 それから、彼らに視線を戻すと、なんでか帰り支度をしている。

「え、もう行くの?」

 思わず出てしまった不満と不安の交じる声音に、鉢屋が止まり、不破君が穏やかに笑う。

「本当に泣き虫だね、美緒ちゃんは」
「年上には見えないんだよなー」

 失礼な一言に振り返るも、当人たちはにこにこと何故か満面の笑顔だ。

 まあ、もともと口でも勝てないのは分かりきっている。
 だから、それ以上睨むのはやめて、私は目元を拭ってから、営業用の笑顔を浮かべた。

「休みが開けたら、また元気な顔を見せてね」

 それから、彼らから一歩下がって、ゆっくりと頭をさげる。

「また、お待ちしてます」

 しばらくそのままでいると、ひとりひとりの手が頭に乗せられ、最後に抑えつけるように置かれた手だけが囁くように言葉を残していった。

「また明日」

 え、と私が顔をあげると既にそこには誰もいなくて。

「……ちゃんと断れるか、確認するってこと、かな?」

 信用ないなぁとなんともなしに、私の口からは笑みが零れていた。
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