おかえりなさい(完結)

□4#六年生の贈り物
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「しかたないなぁ」

 なんだか大きな弟みたいだなぁと的外れなことを考えたのは、彼らにはいわない方がいいだろう。

「美緒、まだかー」

 表から七松君の私を呼ぶ声がして、私は前掛けを結びながら、彼らの元へ戻った。

 見れば、既に湯のみは片付けられ、六人ともが帰り支度を終えているようだ。
 彼らは私を笑顔で迎えてくれる。

「なんだ、着替えちまったか」
「動きにくいって言ったでしょ、食満君」

 残念そうでなく口にする食満君に、私は口を尖らせ、言い返す。

「それで、皆もう行っちゃうの?」

 彼らは数少ない同い年の客だけに、他と違って、別れは少しだけ寂しくなる。
 それが表情に出ていたのか、皆一様に温い笑顔を浮かべる。
 いや、潮江君は固まっているか。

 こういう時にいち早く動くのは中在家君で、軽く私の頭を撫でる手は大きくて優しい。
 ムスッとしているが、機嫌はよさそうだ。

「……ありがと、中在家君……」

 照れくさいけれど、確かに感じる優しさが嬉しくて、私は彼を見上げて微笑んだ。
 少しだけ目が潤んでいたのは、嬉しかったからだ。

 それから、私は一歩下がって、頭を下げた。

「また、お待ちしてます」

 顔をあげようとした私の頭に、中在家君ではない手が乗る。

「また来る」
「うん、立花君」
「休みが開けたら、一緒に走ろうな」
「それは出来ないけど、お茶とおにぎりを用意しておくね、七松君」
「怪我に気をつけるんだぞ」
「何かあったら、すぐに飛んでくるからね」
「うん、食満君も善法寺君も元気でね」

 ひとりひとりの優しい手と言葉に顔が上げられない私は、涙を堪えるのに必死で。

「あまり、考えすぎるなよ。
 美緒は美緒なんだからな」

 最後に聞こえた潮江君の声に、え、と私が顔を上げたときには、そこに六人の姿はなかった。

 いつもいつの間にかいなくなってしまうのは確かだけど。

「……ありがとう、潮江君」

 何故この隠している不安がわかったのかは、私にわからない。
 でも、そのさりげない優しさは、じんと胸に響いた。
 心なしか自分の頬が熱い気がして、私は両頬に手を当てる。

(でも、不意打ちは困る)

 そっけない振りをしているけど、気にかけてくれているのがわかると、どうしてこんなにも嬉しくなってしまうのだろう。

 疲れていそうな潮江君がつぎにきたら、特製花蜜茶でも出してあげよう。
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