おかえりなさい(完結)

□1#いつものこと
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「美緒って、」

 何か言いたげな利吉さんの顔を見上げると、じっと見つめ返される。

「利吉さん?」

 いつまでも続かない言葉に首を傾げると、頭に手を乗せて、柔らかく撫でられる。

「お茶、ゆっくりでいいから」
「ありがとうございます」

 利吉さんの気遣いがうれしくて、私が心のままに微笑んで礼を言うと、利吉さんは苦笑しつつ、山田さんのところに戻っていった。

 でも、私が頼まれた通りにお茶を運ぶと既に利吉さんの姿はなくて。

「あれ、利吉さんは?」
「仕事が忙しいらしくてね、もう行ってしまったよ」
「また、ですか」
「すまないね、美緒ちゃん」

 私が利吉さんを見送ることができたことはない。
 いつも、気がつくといなくなってしまうから。

 見送りぐらいしたいのにな、と少しだけ淋しい気持ちになる。

「あいつも少しぐらい落ち着くといいんだがなあ」
「利吉さんは落ち着いていらっしゃいますよ。
 ……さすがは山田さんの息子さんですね」

 私なんて、いつまでたっても子どものままで、いつまでも戸部さんや山田さんに心配されていたいなんて、甘えたで。

「そういう意味じゃないんだが」

 困った様子の山田さんを見つめると、なぜかため息をつかれた。

「まあ、今はこのままでもいいか」

 山田さんの大きな手が私の頭を柔らかく撫でる。
 心地よくて、温かくて、少しだけ胸の奥がむず痒い。
 思わずふにゃりと顔が緩んでしまう。

「また来るよ、美緒ちゃん」
「は、はいっ!お待ちしてますっ!」

 思わず大きな声で返した私を山田さんは、少し目を見開いて見た後で、苦笑しながら、ポンポンとまた軽く頭を叩いて、行ってしまった。

 その背が見えなくなるまで、私はずっと見送った。
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