あなた〜のために2(完結)
□omake#慶次と私
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一人になった私の側にいつもいてくれたのは、たった一人だけだ。
常に一緒にいたわけではないけれど、その存在は心の支えとなっていたのは確かだ。
「元気か?」
時々街道で会うと、慶次はいつも私にそう尋ねる。
「元気だよ」
私は慶次を見ながら、目を細めて応える。
互いに嘘だとわかっているけれど、互いに訊ねずにはいられない。
全てを失くした私に気力なんてものはなく、ただ与えられた役目をこなすためだけに、惰性で生きているようなものだ。
好きな人と親友を同時に失ったという慶次が何を想って生きるのか、私にはわからない。
好きな人などいたことのない私には、理解できようはずもない。
「たまには京に寄ってったらどうだい?」
「そーだね」
愛想笑いで応える私が、決して人の多い場所へ近づかないことを慶次は知っている。
「今度はどこへ行くんだい?」
「んー…風の呼ぶまま、かなー」
曖昧にはぐらかす私を寂しそうに見つめて、慶次は私の頭をぐしゃりと撫でる。
触れるその手から優しさが伝わってくる。
「気ぃつけるんだぜ。
北はこれから雪も深くなる」
「ん」
「無茶だけはしちゃだめだかんな」
「……」
答えない私の頭を軽くたたき、慶次は私に背を向ける。
「じゃあ、またな」
私はその背が遠ざかり、すっかり見えなくなってから、返事を返した。
「生きてたら、ね」
これから雪の深くなる北の地は、野宿なんて出来ないほどに寒くなる。
だけど、私には人の中に混じることの出来ない理由がある。
人に混じることもできず、妖になることもできない半端な私は、どこにいても異端者だから。
「はぁ」
吐き出した息が少しだけ白くなるのを確認しながら、私は街道をそれて、山道を進むのだった。
早く、役目を終えて、消えてしまいたい。
それだけが、私を支える、私の望みだ。