あなた〜のために2(完結)
□omake2#湯上り
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政宗様の好意で、私は昼から城の湯を頂いた。
今回は梓にも美津にも遠慮してもらって、一人でのんびりと入浴した。
それから、脱衣所で淡青の長着に着替えて、濡れ髪を手拭で軽く拭いてから、その手拭を肩にかけて、脱衣所を後にする。
と、すぐにバフッと上から羽織がかけられた。
この香りは。
「……え、片倉様?」
戸を出て直ぐに気配に気づいて振り返ると、何故か仕事中であるはずの片倉様が待っていた。
頭から羽織をかけられた状態で腕を捕まれ、歩き出す。
「行くぞ」
ひどく不機嫌な声に不安がそのまま声に出る。
「どこに、ですか?」
片倉様は一度立ち止まり、私を見てから、深く深ーくため息をつく。
それから、再び無言で歩き出す。
いや、何か言ってるような。
「……こんな姿、他の男に見せられるか……」
そのつぶやきはしっかりと私の耳に届いたのだけれど、ちょっと笑えてしまった。
だって、片倉様以外の人には私は子供にしか見えないのだから。
「ふふっ」
「何笑って……っ!」
急に片倉様の気配が鋭くなったかと思うと、いきなり近くの部屋に連れ込まれた。
「っ」
問いかけようとした私の口を片手で塞ぎ、片倉様は戸口で耳を澄ませている。
……何か、私が探されているような。
行かなくていいのだろうか。
軽く片倉様の袖を引くが、ただ黙っていろと手をふられるばかりで、振り向いてもくれない。
なんだか、蚊帳の外みたいでムカつく。
もう一度強く袖を引く。
「後で……っ?」
騒ぐと怒られるのは目に見えているので、私はただぎゅっとその大きな身体に抱きついた。
ぐりぐりと広い胸に頭を押し付ける。
それだけで、片倉様の香りで少しだけ気分が落ち着いた。
「……っまえな……」
肩を掴まれて、無理矢理に引き剥がされたら、いきなりの口付けに襲われた。
教わったように息を継ぐ暇もない。
「は……ぁっ」
やっと息を継いでもそれは終わることなく、深く深く私を飲み込んで、考える力さえも奪い去る。
ザラザラとした舌の感触も、歯列をなぞり、舌を絡め、入り込んで混ざり合う互いの唾液さえも全てが気持よすぎて、体の芯が疼いてくる。
そんなことをしたこともないのに、それが何を示すのを知っている私は羞恥で更に体温が上がるのを感じた。
自分の胸に添えられる手にビクリと体が震える。
そっと撫でられると、ぞわぞわと背筋を何かが這い上がる。
それは確かに心地よく、ただ私を翻弄する。
(もっと、直接……)
ゆっくりを潤む瞳を開きながら、自分が考えてしまったことを反芻して、思わず私は片倉様に向かって、両手を突き出していた。
流石にビクともしないが、片倉様も正気に返ってくれた。
「っ、すまねぇ」
「あ、や……ええと……っ」
視線を泳がせる私に、本当に申し訳なさそうな片倉様。
端から見れば、何をしているんだと言いたくなってしまうことだろうが、今の私達にそんな余裕はない。
「だが、葉桜も悪い」
「へ?」
「あんな格好で城を歩きまわるな」
「ただの湯上りですよ」
「だからだ」
「……私が、片倉様以外には子供にしか見えないって、わかってますか?」
少しの間の後で、片倉様は深くため息を吐いた。
この人、ため息つき過ぎじゃないだろうか。
「忘れてたな」
「確認すればわかると思いますけど、片倉様以外には今も十歳ぐらいにしか見えてませんよ」
「そう、なのか」
「そうらしいです。
……私もちゃんと確認したことはないんですけどね」
自分では歳相応に見えてるんで、と笑うとじっと見つめられた。
さっきから恥ずかしいばかりだけれど、私もじっと見つめ返してみる。
「俺に幼女趣味はねぇからな」
「わかってますよ」
「葉桜はちゃんとイイ女だよ。
この俺を腑抜けにしちまう」
「っ、あ、ありがとうございます?」
「もう一回、いいか」
「え?……っ」
答えを待たずに、軽く音を立てて、鼻先を啄まれる。
それから、頬や目蓋や額やら、顔中に降ってくる口付けはくすぐったい。