あなた〜のために2(完結)

□[2] 6#それでも一緒にいたいから
1ページ/3ページ

ドリーム設定





「寒くはござらんか」
「はい」

 早馬の背に揺られながら、私は真田幸村に抱きかかえられるようにして馬に乗っていた。
 流石に、政宗様ほどに乱暴な運転ではないので、安心して背を預けることは出来る。
 でも、私は馬の首にしがみつくようにして乗っているだけで、真田幸村と触れることは少ない。

 こうなる数刻前、私は信玄様に暇の挨拶に行った。
 そこで、真田幸村に送ってもらうようにと告げられたのだ。
 彼にも、西へ行く役目があるのだと。
 私の目的も西にあるから、丁度いい、と。

 正直、もう誰かと関わるのは嫌だったけれど、どうしてもと信玄様にお願いされて、頷かないわけにはいかなかった。

(こんな化物の心配より、自分の心配をするべきなのに)

 信玄様は病床にありながらも、私を心配してくれる。
 まるで、本当の娘みたいに。

「待たなくてよいのか」

 そう、訊ねられた時、私はちゃんと笑えたはずだった。

「いいんです。
 あの方の隣に、私みたいな化物はいないほうがいいんですよ」
「……葉桜殿」
「信玄様もご存知でしょう?
 舞姫はヒトと共には暮らせません。
 特に最後の舞姫となってしまった私は、次の舞姫が現れるまでの果てない時を生きなければなりません。
 だからーーもう、いいんです」

 別れは必ず訪れる。
 それが早いか遅いかというだけの話だと。
 最初に目覚めた夜に、私はちゃんと片倉様にも伝えた。
 だから、もう、いい。

「葉桜殿、少し眠っても良いで御座るよ」
「ん」

 背を軽く叩く手に促されるように、ゆっくりと私は微睡みに落ちてゆく。

 最初から、不釣り合いなのも不似合いなのもわかっていた。
 それなのに、どうして、求めてしまったのだろう。
 願ってしまうのだろう。

「……っ」

 涙を隠すように、私は馬の鬣に深く顔を埋めた。

 私の覚醒を促したのは、遠くから聞こえる別の馬の駆ける音だった気がする。
 それに胸騒ぎを感じた私は、すぐさま手綱を力いっぱい引いていた。

「葉桜殿っ?」
「……片倉様……?」

 虚空に問いかける私を周囲がどう思うかなんて関係なかった。

 心が、ひどく騒ぐ。

「真田の旦那っ」

 丁度上空を滑空する佐助が追いついてきた。
 その目が一瞬私を見たことで、私は確信してしまった。

 近くに、片倉様がいる。
 ーー会いたい。
 でも、どんな顔で会えばいいのだろう。
 別れを覚悟して奥州とはまったく違う方向へ向かっているのに、まさかそんな奇跡が起きるなんて思ってもいなかった。

「葉桜殿、どうなさるか」

 問いかけてきた真田幸村を振り返らずに、私は迷う。
 会いたい、会えない、会いたい、会えない。

 でも、会いたい。

「葉桜っ」

 後方から片倉様の声が聞こえたら、もう勝手に体が動いていた。

 馬を飛び降り、跳ねるように声に向かって走りだす。
 近づいてくる変わらない姿に安堵し、馬から降りた片倉様の胸にしっかりと抱かれたら、私はさっきまでの不安も何もかも一辺に吹き飛んでしまった。

「っ、片倉、様、が、遅い、からっ」

 その胸を叩いて、子供みたいに泣きじゃくって、馬鹿みたいにただ縋り付いて。

「不安でっ、怖くてっ」

 どう見ても八つ当たりなのに、片倉様は全部受け止めてくれた。

 落ち着いてから、私は自分の醜態が恥ずかしすぎて、周囲を見ることができなくなった。
 特に、真田幸村とか佐助とか。
 佐助は、とっくに姿を隠しているみたいだけれど。

「良かったで御座るな、葉桜殿」

 そう言ってくれる真田幸村は少しだけ目を潤ませていた。

「真田幸村……?」

 怪訝そうな片倉様の襟を掴んで、その耳に囁く。

「幸村様も私の本当の姿が見えるとおっしゃってました」
「っ、そうなのか」

 驚いている片倉様から一歩前に出て、私はきちんと頭を下げる。

「幸村様、送っていただいて有難うございます」

 顔を上げて微笑む私を、真田幸村は少し眩しそうに見ているようだ。

「某の思った通りでござるな。
 葉桜殿は片倉殿の隣にあったほうが、良い顔をなさる」
「そう、でしょうか?」
「自信をお持ちください、葉桜殿。
 ーー貴女と片倉殿はよくお似合いでござる」

 不安を見ぬかれて、私は目を丸くした。
 口にしたことはなかったのに、何故わかったのだろう。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ