あなた〜のために2(完結)

□[2] 5#幸村の告白
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 翌日の朝、目を覚ました私はしばらくぼーっとしていた。
 甘い匂いに釣られて、ふらふらと縁側の障子を開く。
 きょろきょろと辺りを見回すと、何故か部屋の前に黄色い花が置かれていた。

 しゃがんでそれを拾った私は、おもむろに花びらを一枚食む。

「……甘くない……」
「なにしてんの」

 ぺしりと頭を叩かれた。
 痛くはないが、叩いた相手を見上げると、佐助が何故か困った顔をしている。

「佐助?」
「寝ぼけてないで、さっさと部屋に入る」

 私の背中を押して、無理矢理に部屋に入れた後で、佐助は何故かため息をつく。
 ーー起きてから、私の周辺でため息を付く人が増えたのは、それだけ世が乱れているということなのだろうか。
 気が付かない私は、舞姫の力が弱くなったのだろうか。

「佐助、大丈夫?」
「あー……うん、嬢ちゃんは気にしないでいいから」

 上から抑えるように私の頭を撫でて、すぐに佐助はどこかへ消えてしまった。
 忍を追いかける気はないので、私は部屋をぐるりと見渡し、着替えを探す。
 寝る前に枕元に置いておいたはずだ。
 それを見つけて、私はもそもそと着替え、もう一度部屋を出る。

 片倉様の気配はない。
 まだ、迎えは来ていない。

「ーーまだかなぁ」

 ただ待つというのは性に合わない。
 そもそも、誰かを待つなんて、したことがないから、どうしたらいいのかわからない。
 でも、少なくとも移動したら行き違うかもしれないということぐらいはわかる。

 庭に降りて、昨日のように散策する。
 池の蛙や蝸牛に挨拶し、躑躅の葉に花にと挨拶し、最後に振り返って笑う。

「おはようございます、幸村様。
 私に何か御用でしょうか?」

 いくらなんでも部屋を出てからずっとある視線に気が付かないほど、私は鈍感じゃない。

「っ、お、おおぉおはようございます。
 用というほどのことではござらんのだが」

 そこからなかなか話が進まないので、私は散策を続けることにした。

 しばらくしてから、私が離れていったことに気づいた真田幸村がおいかけてくる。
 彼が追いついたのを感じ取ってから、私はまた振り返る。

「幸村様」
「は、はいっ」
「私に用がないのでしたら、ひとりにしていただけませんか」

 はっきりと私が言うと、真田幸村様は先程までの戸惑いを納めて、じっと私を見つめてきた。

「某がいては迷惑でござるか」
「わりと」
「っ」
「ーー誰かといることに、私は慣れてないんです。
 もうずっと、一人でいることが当たり前でしたから」

 説得するために口にしているはずの言葉が、いつの間にか自分の古傷に自分で新たにキズをつけている気分になり、泣きそうになってしまった。

 わかっていたはずだ。
 自分は異形であり、人とは相容れない生き物なのだと。
 あの長い眠りから起きて直ぐに片倉様に会えて、想いが叶って、当たり前みたいにずっと隣にいてくれたから、忘れかけていた。

 追ってきてくれるなんて、なんで信じることができたのだろう。
 仮にそうしてくれようとしても、片倉様の周囲は許さないだろう。
 だって、私はーー。

「私といれば、幸村様がいらぬ誤解を受けますよ」
「……葉桜、殿……?」
「お願いですから、ひとりに、してください」

 私は真田幸村から顔を背けて、近くの木に手をついた。
 吸い込まれるように額もつけて、木の音に身を委ねる。

 極自然に行ってしまうこんなこと一つでさえ、普通の人には出来ないこと、わからないことだと知ったのは、すべてを失ってからだった。

 待つべきでは、ないのかもしれない。
 でも、片倉様だけは信じたいと、私は思っている。
 最初に剣を交わしたあの日からずっと、あの方だけはこんな私でもいいといってくれると、愛してもらえると。

「葉桜殿」
「っ、ま、まだいたんですか?」

 急に声をかけられて、私は物思いから浮上した。
 顔を上げて、振り返れば、さっきと同じ場所に真田幸村が立っている。
 朝日が綺羅綺羅と彼の上に舞い降りて、少しだけ眩しい。

「やはり、某と片倉殿のもとへ参りましょう」
「え?」
「昨日は断られましたが、やはり葉桜殿はそのような哀しい顔をしているべきではござらん。
 ーー片倉殿であれば、貴女も笑顔になるのでござろう。
 然らば、」

 私は数度瞬きしてから、首を傾げた。

「何故、幸村様がそんなことを気になさるのですか?」

 すると何故か真田幸村も首を傾げる。
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