あなた〜のために2(完結)

□[2] 1#隠し事
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 私は目覚めてから、しばらくの間は城にいることを政宗様に命じられた。
 それは、私の体調を心配してのことだと理解できるし、私自身にもここまできて逃げ出すつもりはない。
 眠っている三年もの間世話になっているのだから、今更だ。
 ーーあちらこちらの闇の気配は気になるけれど、緊急を要するほどのものもない。

 再会した梓と美津には、涙ぐんで抱きつかれた。
 梓は胸とか色々と成長して、かなり羨ましい体型になっている。
 まあ、あの時にあったかすがには及ばないけれど。

「葉桜、箸が止まっているぞ」
「政宗様たちと食事しないでいいんですか、片倉様」
「……その政宗様の命だ」

 なぜか私の部屋には二人分の膳が運ばれ、私は片倉様と食事をとっている。
 それも向い合って、だ。

 想いが通じあったとはいえ、これまでだって大して話をしたわけでもない。
 じゃあ、なんで好きなのかと問われても、即答はできない。
 ただ好きなのだ。

 そんなことを考えながら、漬物を口に運びつつ、片倉様を見るが、相手はただ黙々と食事をしている。

(……き、気まずい……)

 咀嚼するものの、飲み込むのが辛い。

「……ごちそうさま」

 耐えかねて、膳に手を合わせた私を、片倉様は気遣わしげに見る。

「もういいのか」
「はい、もう満腹です」

 なんとか笑顔を作って言うと、丁度食事を終えた片倉様も箸を置いた。
 それから膝を進めて近づいてくる。

 私がなんだと思うまもなく、片倉様の手が近づいてきて、私の前髪を避けて、大きな手が私の額を覆う。

「っ」
「熱はない、か?」

 むしろ今!と叫びそうになりながら、私は両目を閉じて首を振った。

「ほ、本当にもうなんともありませんからっ!
 説明したとおり、私たちの眠りは回復を強く促す作用があるんです。
 だからっ、そっ、その……っ」

 なんともないんだと訴えながら見上げると、急に頭を押さえつけられた。

「か、片倉様っ?」

 なんでか上から苦笑する声が聞こえるんですけど。

「さっきは自分から迫ってきたってのに、少し触れたぐらいで変なやつだな」
「迫っ……?」

 なんのことだと眉を寄せる私の顎に片倉様の手がかかる。
 それで、自分がさっき何をしたのかを思い出した私は、一気に顔に熱が集まってしまった。

「あああ、あれはっ、だから、たたた確かめる方法の一つでしてっ」
「あれが?」
「……呼気の呼応で、えと、あの……その、舞姫だけにその、わかる徴があるんです……っ」

 片倉様の手を掴んで外そうとするが、びくともしない。
 痛いわけではないが、身動きができない。
 恥ずかしいのに、逃げ出せない。

「どんな風に?」
「せ、説明するんですかっ?」

 本気ですかと尋ねると真面目に頷かれてしまった。

 どうしよう、今直ぐ旅に出たい。

 視線を彷徨わせる私を、どこか片倉様は愉しそうに見ている。
 ーーえ、愉しそう?

「……人が悪いですよ、片倉様」
「なんだ」
「からかってるでしょう」

 こっちは慣れない感情に振り回されて、必死に振舞ってるのに、それを楽しんでるだなんてひどい。
 恨めしげに見やると、やっぱり苦笑され、手を外して頭を撫でられた。

「俺も、少し浮き足立ってるみてぇだ。
 葉桜が起きて動いてるのが、まだ信じられなくてな」

 なにしろずっと眠っているのを見ているだけだったんだ、と言われてしまえば、私としては罪悪感に胸が締め付けられる。

「私も、また片倉様にお会いできるなんて、その上思いが通じるなんて、想像も出来ませんでした。
 私はあの時が最期だと思ってましたから」

 そうだ、あれが最期だと、覚悟を決めていた。
 だから、未だに現実味がないのは私も同じ。

 絶対に無理だと思っていたのだ。
 どんなに想っても報われない。
 だから、あれを最期にすっぱりと諦めようと思っていた。

「もしも俺が言わなかったら、どうするつもりだったんだ」

 問われてから、困ったように笑ってしまった。
 どうするかなんて、私にはひとつしかない。

「また旅暮らしに戻るだけです。
 それが早いか遅いかの違いになるだけですから」

 舞姫には役目がある。
 それを私は決して忘れるわけにはいかない。
 今はここ奥州に、片倉様の側に留まるにしても、長くはいられない。
 そう定められている。
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