あなたが笑っていられる世界のために

□3#竜に攫われて
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「Hey!アンタが葉桜か?」

 村を出て少しして、奇妙な馬に乗った男が近づいてきた。
 戦装束のままの伊達政宗だ。
 隣には片倉もいる。

 そもそもなんで伊達政宗は馬に角のようなものをつけているのか、誰かつっこんだりはしないのだろうか。

「こんなところでなにしてる」

 村から少し外れた場所でしていることといったって、歩いているぐらいしか答えようがないではないか。
 そんなこともわからないのか。

 それとも、彼らは私がどこかの間者だとでも考えているのだろうか。
 ……それもあるかもしれない。
 ある意味こんな時代に旅なんて酔狂をする人間など少ないに違いないだろう。
 逃亡、ならともかく。

「あなた方こそ、なぜ何時までもここに留まっておられるのですか」

 私が少し強めの口調で言い返すと、そばに控える片倉の眉間の皺が一本増えた。

「アンタを待ってた」
「私を?」

 それこそ、何の冗談だと私は思わず笑っていた。

「人の身で化け物を飼いたいと?
 冗談でしょう」

 ざわりと周囲の者たちがざわめいたのがわかった。
 でも、もう見られているのに隠す必要もないだろう。

「アンタが化け物?
 俺にはただの小娘にしかみえねぇが」
「……ただの小娘が片倉様と打ち合うことができるわけないでしょう。
 そのぐらい、わかっておいでと思いましたが」

 刺のある私の言葉に、伊達政宗も片倉も動揺ひとつ見せない。

 どうせなら、怒って斬り捨ててくれればいいのに。

「本当なら、あなた方にこの力を使いたくはないですが、いつきを助けてくれた礼です」

 仕方無しに私は数歩下がり、舞扇を構えた。

 眼を閉じて、世界を舞扇に乗せる。
 その力でもって行うのは癒しの舞いだ。
 広範囲に届けるこの力は、ひどく体力を使うが仕方ない。
 舞い終えた私は、両手を前に重ねあわせて、伊達政宗に頭を下げた。

「それでは、せいぜい頑張って戦に勤しんでください。
 それで、侍なんて、さっさと死んでしまえばいい」

 ざわりと泡立つ空気を尻目に、私は堂々と彼らの脇を通り抜けていこうとした。

「何故そこまで侍を目の敵にする。
 肉親が殺されでもしたか」

 肩に置かれた手を振り払い、私は強く片倉を睨みつける。

「肉親、だって?
 ああ、そうだ。
 おまえら侍は、勝手にやってきて、里を荒らし、私の家族を殺したんだっ」

 やったのが伊達軍じゃないのはすぐにわかった。
 それでも、侍そのものが私には嫌で仕方ない。

「おまえら侍は、私の癒しの力だって、戦のためとしか見られないのだろう。
 だから、こんな子供を寝所に引っ張り込んで囲い込もうとしたり、他に取られたら危険だからと排除しようとしたりする」

 驚いたように片倉が目を見開いているが、そう珍しいことでもないだろう。

「侍がそんなだから、この国からは嘆きが消えない。
 どんなに私が癒そうとも、人の嘆きが終わらないんだ」

 感情が高ぶるのを抑えられなくて、勝手に右目から涙が溢れ出る。
 こんな、八つ当たりをしたって、なにも変わらないのに、私は何をしているのだろう。

 黙り込んだ私に、伊達政宗が騎乗のまま近づいてきた。

「アンタ」

 伸ばされた手をとっさに振り払う。

「触るなっ」

 一斉に向けられた切っ先に驚いたが、すぐにそれは伊達政宗の合図でおろされた。

「すまねぇ」

 降ってきた謝罪の言葉に、はっと私は顔をあげた。
 謝ってほしかったんじゃない。
 私はただ、ただ八つ当たりしただけで。

「……なんで、謝るんだ。
 里を襲ったのは伊達軍じゃないだろう……」
「そうだな、奥州伊達軍にそんな卑怯者はいねぇ」

 だが、と伊達政宗は続けようとしたが、そのまま口を噤んだ。
 なんだ、と見上げる私ににやりとその口元が笑う。
 まるでガキ大将みたいな笑顔だ。

「葉桜、アンタ、旅をしてるんだったな。
 次の行き先を決めてねぇなら、うちに来い」

 さっきの私の話を聞いていなかったのか、といいかけた私の身体がふわりと浮かぶ。

「何を……!」
「政宗様っ」

 片倉の咎め立てる声に耳を貸さず、伊達政宗は私を自分の前に据えて、快活に笑った。

「俺は葉桜が気に入った。
 だから、来いっつってんだ」
「私は侍なんか嫌いだと言っているっ」

 抗議する私の頭を伊達政宗は、わざとと思うほどにぐしゃぐしゃに撫でまわす。
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