護国舞姫の剣
□9#ここにいろ
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伊達を屋内へと下がらせ、私は八重に舞扇をとってもらい、彼らから離れた場所で構える。
両眼を閉じて、ひとつ深呼吸し、意識を世界へと馴染ませる。
世界を取り巻く空気が、変わる。
「……ま、間違い、ありません」
ごくりと喉を鳴らした八重が呟くのが聞こえて、私は思わず笑っていた。
(間違いなく、私は「化け物」なんだろうな)
どうしたって人に溶け込めない。
かといって、妖かしにもなれない。
どこへもいけない、中途半端な存在。
手を翻し、ゆるりと動かしてゆく。
自分の身の内に溜まる穢れを少しずつ扇に乗せ、力を加えて洗い流してゆく。
手足に心を込めて動かせば、それらはやがて柔らかな光を放って世界へとまた溶けてゆくのだ。
(このまま、この身が世界に溶けてしまえば楽なのに)
全ての穢れが消えてから、私はゆっくりと舞を収めた。
その場に両手を下げて立ちすくんだまま、蒼天を見上げる。
視界の端では人間たちが何かもめているようにもみえるが、関係の無いことだ。
こんな風に誰かといるのも、もう終りにしなければいけない。
騒いでいる彼らの横をすり抜けるのは、楽だった。
まだ私の存在の半分は世界に溶けたままだから、誰にも気づかれることなく着替えを済ませ、少ない荷物を背負う。
「Wait、どこへ行くつもりだ」
気づかれていないはずだったのに、伊達にまた腕を掴まれていた。
私は伊達を見て、作り笑いを浮かべる。
「見ての通り、穢れも払い終わったし、次の場所へ旅立つだけです」
「怪我はまだ治ってねぇだろ」
「問題ありません」
私を見る伊達の顔はひどく怒っているようだ。
ここへ来て、まだ二日か三日程度しか経っていないというのに、こんなにも私を気にかけて。
馬鹿な人だ。
私の腕にある伊達の手をそっと撫でて、私は笑う。
「短い間だったけど、こんなに楽しい時を過ごせたのは姉様たちを失って以来でした。
ーーありがとう」
本心の言葉は、自分でも驚くほどすんなりと出てきた。
そうだ、私は楽しかったのだと、今更ながらに気がつく。
伊達との語らいが楽しかったから、こんなにも胸が苦しくなるほど心に迎え入れてしまっていたのだと。