護国舞姫の剣

□6#無理をするから
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 どこをどうやって走ったのかわからないが、辿り着いた板の間ーー道場のような場所の戸を開けた私はやっと冷静になった。
 見慣れたものに近い光景を見つけたからかもしれない。

 乱れた息をなんとか整えたが、先程のことを思い出すだけで胸が苦しい。
 寝るときにそのままだった黒髪が首や袖口にまとわりついて気持ち悪いし、最悪だ。

(なんで、私はあんなことを言ったんだ?)

 自分でもわからない感情が胸に溢れて、どうしていいかわからなくて、苦しい。
 特に、伊達に「気を許している」と指摘されてからはそれが強くなった気がする。

「そんなはずないのに……」

 心を落ち着かせるために、自然と手が動く。
 身体が動く。
 想いのままに、体が動き、気がつけば、無心にでたらめな舞をしていた。
 いつもなら世界に溶け込めるはずの舞が、ちっとも溶け込めない。

 無心になろうとすればするほど、心のなかに伊達が思い起こされて、千々に乱れて定まらない。

「違う、違うったらっ」

 それは認めてはならない感情だから、知らないふりをしなければいけない。

 姉様たちを死なせてしまった時に決めたではないか。
 誰にも気を許さず、生涯一人を貫き、この国の浄化に努めると。
 それが、私に出来る贖罪なのだと。

 滴り落ちる汗が足元を濡らし、足を滑らせた。

「うわっ」

 衝撃に備えようとして目を閉じた私は、しかしなにか柔らかなものに抱きとめられる。
 違えようのないその香に、胸がさらに痛い。

「てめぇは馬鹿か。
 Don't be rash.(無茶すんじゃねぇ)」

 そっと目を開くと、心配そうな伊達の顔が飛び込んできた。
 見上げてみて、改めて、ああ綺麗な人だと思う。
 自然とその顔に手を伸ばしかけ、途中でその手を抑えた。

「……ごめん」

 目をそらして告げる私の視界の端に、あからさまに不機嫌になる伊達がいる。

「Look at me」
「やだ」
「Why?」

 理由なんか、説明できない。
 伊達といると自分が自分でいられない気がするなんていったら、更なる誤解を受けそうだ。
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