護国舞姫の剣

□4#口調と呼び名と自覚
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「それは俺が片目だからか」

 どこかイラつくような伊達の声音に、私は首を傾げる。

「なんだそれは」

 確かに身体の一部が欠損するというのは不便かもしれない。
 だが、そういった者たちでも、努力して能力を伸ばしている者がいると私は知っている。
 伊達が苦労して今の強さを手に入れていることぐらい、容易に想像はついている。

「葉桜は小十郎の前と俺の前だと、態度も口調も違うじゃねえか」

 そうだっただろうかと考え込んでいると、無意識かと舌打ちされた。

「あー、別に片目だからとか、そういうんじゃないと思う。
 仕事中に出会ったせいかな。
 今更、伊達殿に取り繕っても無駄だろう」

 仕事、と聞き返されて、そういえばと苦笑した。
 本当に、あんな現場を見られて、命まで救われて、全部見なかったことにしろをいうほうが無理な話だろう。

 私は伊達に向い合うように両膝をついて座り、真面目な面持ちで説明をすることにした。

「悪欲、というのはわかりますか」
「仏教の欲界とかいうやつの中のひとつだな」
「そうです。
 万の物を必要以上に求める心、そういったものが私には黒い靄のように見えるのです。
 憎しみや怒り、悲しみといった負の感情も。
 それらが凝り固まって形を成すと、伊達殿があの時見たような化物のような形を取り、人を食い殺す悪鬼となります」

 胡乱な、そういう胡散臭いものをみるような目で見られることには慣れている。

「私の一族はそれを代々舞うことで鎮め、時には戦って消し去ってきたのです」

 舞の動き、ひとつひとつに鎮め、浄化する力があるのだと聞いたが、ほとんど覚えていない。
 私が覚えているのは舞の型と戦い方だけだ。

「そんなの聞いたことねぇな」
「ずいぶん昔に表舞台から姿を消してしまいましたから」

 今ではそういうことをするのは主に神社の神主とかそういったものらしいと聞いている。
 彼らは黒い靄を「穢れ」と呼び、祓うことが出来るらしい。
 だが、伝え聞くところによると、やはり浄化することまで出来るものというのはごくわずかという話だ。

 伊達は渋面した顔で私の頭を優しく叩く。

「アンタの言はわかった。
 もう口調を変えなくていい」
「……いいのか……?」
「アンタが……葉桜が俺に気を許しているからだと思えば、腹も立たねぇよ」

 私が伊達に気を許している、だと。
 言われてから、首を傾げる。
 初対面の男にそこまで気を許す自分ではないはずなのだが、言われてみるとそう見えなくもない。
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