護国舞姫の剣
□1#乱入者は六爪流
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彼を初めて見た時は冗談じゃないと思った。
だって、六本の日本刀を一遍に使うとかありえないし。
それを操っている人間が隻眼てのはいいとして、なにあの戦装束。
大将が目立つのは当たり前にしたって、誰があんなの作ったんだか問いつめたい。
……まあ、他の藩の武将も似たり寄ったりと言ってしまえばそれまでだけど。
二度目に会ったのは仕事の最中で。
昼の光も届かないほど暗い森の更に奥、少しだけ拓けた場所を舞台に、一人の観客もない中で一人舞う私を見つけた彼が近づいてきて。
「アンタ……」
私はとっさに手元の短刀を彼の足元に投げつけて。
「そこを動くなっ!」
中途半端に止まった舞のせいで、静まりかけていたソレが意思を持って形を成す。
身の丈七尺はありそうな巨体を見上げて、私は舌打ちした。
なんとかソレが形を成そうとしているのは人の姿で、黒い靄に覆われた不気味な物体となっている。
この場合の急所は人体と同じはずだが、私の背では簡単には届かない高さと距離にある。
「shit!なんだ、こいつはっ」
儀式を邪魔してくれた男が両手に六本の剣ーー六爪流を構えるのを見て、私はようやくそれが誰か思い当たった。
奥州筆頭、伊達藤次郎政宗。
彼以外にそんな武器を使う者を私は知らない。
よく見ればその蒼を基調とした戦装束には見覚えがあったのだ。
が、いくら彼でもソレと戦う無理だ。
ソレはただびとが敵う相手ではない。
私以外のものの攻撃はカスリ傷ひとつ付けられないのだ。
ソレはまだ相手が見えていないのか、乱入者に向かっていこうとしている。
「馬鹿っ!」
伊達の闘気が蒼くその身を包むのを見ながらも、私は彼に向かって突進する。
彼はどうしようとも敵わない相手というのを知らないのだろう。
これをどうにか出来るのは私しかいないというのに。
ソレが大きく腕を振り上げる。
「おまえの相手は、私だろうっ!」
間一髪、私はソレと伊達の間に飛び込み、ソレに向かって舞扇を振り上げる。
軌道を逸らした腕が私たちの直ぐ脇の地面を大きく抉り、凹ませた。
「説明している時間はない。
さっさと逃げろ、大馬鹿者っ!」
伊達は目の前に現れた私に少し驚いていたようだ。
無理もない。
今の私は青龍を金糸銀糸で縫われた鮮やかな蒼の打掛姿をしているのだ。
腰まである黒い髪をひとつに括ってあるとはいえ、とても戦いに向いている姿とはいいがたい。