放浪の舞姫

□8#放浪の舞姫、葱を食う
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 起きてから、また私は男に平謝り状態でした。
 というか、本当に良い人すぎる。
 私はてっきりそのまま捨て置かれるかと思ったのに。
 ーーそれでも、もう構わないのに。

「ありがとうございましたっ」
「メシできてるぞ」
「ごはんっ!」

 用意された白米と葱の味噌汁、葱焼き、それから漬物と堪能してから、はっと私は男をみる。
 既に膳は空だ。

「まだ食うのか」

 少し呆れ気味だが、手を差し出してくる男に、私は無意識にご飯茶碗を渡す。

「え、ええと、あれ?
 なんで、私ここに?
 どうして、ご飯まで…」
「舞を見せてもらったからな、その礼だ」

 首を傾げながら、私はご飯を受け取り、漬物を一口かじる。
 ああ、美味しい。

 それからまた夢中になって食べたそのあとで、私はもう一度男に頭を下げたのだった。

「ごちそうさまでした」
「ああ」
「こんなに美味しいご飯は久しぶりですっ」
「そうか」
「姉様のごはんも一級だったけど、ここは特級ですねっ」
「くっ、なんだそりゃぁ」
「それだけ美味しいということですっ」
「あの舞に対してこれじゃあ、足りないだろう」
「そんなことないですっ。
 だから、折角なので、今朝も踊ってきますねー」

 弾んだ足取りでその家を出ようとした私は、入り口で誰かに思いっきりぶつかって、弾かれた。

「わっ」
「なんだ?」

 私が通ろうとした出入り口を入ってきたのは、慶次より少し下ぐらいの青年だ。
 右目に刀の鍔飾りを使った眼帯をつけている。

「誰だ…?」
「そっちこそ、誰?
 あ、て、この場合は私が不審者っ?
 ごめんなさいっ!」

 大慌てで私が頭を下げると、なんでか思いっきり笑われました。
 えーと、なんで?

 とりあえず、あの男の客だろうし、私に用事はないし、と私は青年の隣をすり抜けて畑へと向かった。
 そうして、昨日のように畑の前で踊り始めると、もう楽しくて楽しくて。

「Bravo!」

 夢中で踊り続けていた私は、聞きなれない響きと拍手に思わず動きを止めていた。
 そこにいたのは先程の青年と、この畑の持ち主だ。

「アンタ、イカしたDanceを踊るじゃねぇか」
「えと、どうも…」

 とりあえず頭を下げるけど、さっきまでの楽しい気分を壊されて、私はちょっぴり不機嫌だ。

「名前は」
「はあ、葉桜、ですけど、あの、あなたはどちらさま…?」

 答えながらも気分急降下中で、それを気にするように畑がさざめく。

(大丈夫、だよ)

 畑に手をやりつつ、慰める思いで触れる。

「Realy?俺を知らねぇのか」
「なんで見ず知らずのあなたを私が知ってるんですか」

 不機嫌そのものの声で私が返すと、なんでか青年は笑い出し、この畑の持ち主の男が不機嫌に眉根を寄せた。

「…葉桜」
「あ、そういえば、宿を貸していただいた上にご飯までいただいたのに、自己紹介がまだでしたね。
 私は葉桜と言います。
 宿なしの舞手ですっ」

 私は男に向かって、ご飯の美味しかったことを思い出しながら、満面の笑顔で礼をする。
 本当においしいごはんだった。

「俺は片倉小十郎。
 こちらの御方は」

 小十郎の言葉を遮り、青年が名乗る。

「俺は奥州筆頭、伊達政宗だ」
「へーそうなんですか」

 折角名乗ってもらったが、私は彼には欠片も興味がわかない。
 とりあえず。

「あの、もういいですか?
 私はまだこの子たちと遊んでたいんで」
「…踊ってただけだろう」
「あはは、そうともいいますー。
 それじゃ、片倉様に、伊達サマ、御前失礼いたしますー」

 気まずい空気から逃れるように、私は水路の方へと足を向けた。
 …何故、ふたりともついてくるのだろう。

 私が振り返ると、政宗がニヤリと笑う。
 だが、私は首を傾げて返し、小十郎へと目を向けて、問う。

(ついてくるの?)

 意味は全く通じていないため、何故か頷いて返された。
 えーと、困ったな。

「…あの、気が散るんで」
「Ah?」
「どっかいってもらえませんかね」
「葉桜」

 焦った様子で小十郎に名前を呼ばれたけれど、私としては気分良く踊りたいだけなのだ。
 ここを離れればいいのだけど。

「…ここなら追ってこれないっていうしなぁ…」

 困ったなぁ、と小さくつぶやいていると、急に肩を掴まれた。
 いつの間にか目の前に政宗がいる。

「あの、手を離してください、伊達サマ」
「アンタ、誰に追われてんだ?」
「はぁ、それがあなたに関係ありますか?」

 真っ直ぐに睨み返すと、なんでかますます政宗の機嫌はよくなるようだ。
 なに、この人。

「俺が匿ってやろうか」

 耳元で艶っぽく囁いてくる政宗に、脳天気な私でもさすがに危機感が生まれる。

「全力で遠慮しますっ!」
「そういうな。
 礼なら、アンタの身体で…」

 胸元に触れる政宗の手を、私は思いっきり弾いて、すぐに小十郎の後ろへと逃げ隠れた。
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