おかえりなさい(完結)

□[食満留三郎] 同室だから
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 食満君の前で眠ってから、次に目を覚ましたら、そこには山田さんがいて、私は死ぬほど吃驚しました。
 え、これ、なんのドッキリですか。

「や、山田さんっ」

 まだ布団で眠っていた私は慌てて起きようとしたのだけど、山田さんに制された。

「食満留三郎が美緒さんの世話になったそうだね」
「世話って、風邪を引きかけていたから、無理を言ってうちで休ませたんです。
 勝手をして、ごめんなさい」

 うわーうわーと布団をかぶって隠れてしまいたいのを抑えて、私はオロオロと返事をする。
 そういえば、善法寺君と乱太郎はどうしているのだろう。
 山田さんに聞いてみると、まだ風邪を引いているそうだ。

「それでも、乱太郎が肺炎にならないで済んでいるのは、美緒さんのおかげなのだと善法寺伊作が言っていたが、どうなのかね」

 あの時は無我夢中だったが、そういえばどうして私はあんなことを知っていたのだろう。

「どう、なんでしょう?」
「美緒さん」
「……自分でも、よくわからないんです。
 ただ、肺炎にだけはさせちゃいけないって必死で、気がついたらああしてて」

 そうだ、なんで私はあの時にまっさきに乱太郎の心配をしたのだろう。
 食満君も善法寺君も同じようにずぶ濡れだったのに、自分の乾いた着物を与えようと思ったのは迷わず乱太郎だった。
 幼いから、という心配ももちろんあるが、それ以上にあのぐらいの歳の子は食満君たちに比べて、抵抗力が低いとーー知っていた。

 なんで、私は、それを、知っていたのか。

「美緒さん、」
「私……なんで……」

 体が震えるのは寒いからじゃない、自分という存在の不安定さに恐怖しているのだ。
 本当に私は何者で、なんでこんなことを知っているのだろう。
 自分は一体何なのだろう。

「私、私……っ」
「美緒さん」

 ポンポンと私の頭を優しく山田さんが撫でる。

「大丈夫だ」

 それは雑渡さんとは全く別の、安心の魔法だ。
 不安に震える私をそれだけでなだめて、安心させてくれるのは山田さんだけなのだ。

「大丈夫」
「っ……っえ……っ」

 引き寄せられるままに私はそのまま山田さんの胸で泣かせていただいたのでした。



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