おかえりなさい(完結)
□[食満留三郎] 同室だから
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それから鳥を捌いて、鍋にして、コトコト煮ている間に一度食満君の様子を見に行った。
大人しく寝ているように見える。
「……無事でよかった……」
その寝顔を見ていたら、自然と安堵の言葉が出てきた。
生きててくれてよかった。
もう、大切な人を無くすのは嫌だ。
三人が死んでしまうかもと思ったあの時、私は全身の血が凍り付くようだった。
私がわがままを言ったせいかもしれないとまで思ったけど、今冷静になってみても、関係ないことはわかる。
雑渡さんがいうようによくあることなのだとしても。
「……生きててくれて、ありがとう……」
自分の目元からぽとりと一滴が落ちて、私はそれを慌てて袖で拭った。
煮ている鍋が心配だ。
それから、食満君に鍋を食べさせて寝かせて、私も隣に薄い布団を敷いて寝ていたら、案の定夜中に食満君が魘されだした。
熱が上がってきたのだろう。
「頑張って、食満君」
私は一晩中彼の頭に乗せた手拭を変えたり、汗を拭いたりして過ごしていた。
ただ、必死だったのだ。
何度か食満君に夢現で名前を呼ばれて、そのたびに手を握って励ました。
聞こえていないのだとしても、誰かわからない神様に食満君と同じように苦しんでいるかもしれない善法寺君と乱太郎を助けてくださいと、祈っていた。
「……美緒……」
誰かに名前を呼ばれて目を覚ました私は、朝日の中で起き上がった食満君の顔色を見て、やっと安堵した。
すっかり具合はいいようだ。
「おはよう、食満君」
手を伸ばして、食満君の熱をはかろうとした私の腕を、食満君が掴んで引っ張ったので、寝起きすぎて力の入っていない私の体は、彼の体に簡単に落ちてしまった。
落ち着いた鼓動の音が、安心と眠りを誘う。
「ありがとな、美緒」
「ううん、食満君が元気に、なったら……それで……」
ゆっくりと眠りに落ちていく私に食満君が何かを言ったようだけど、私にはわからなかった。
「おやすみ、美緒」
「ん」
私の頭をなでる手がとても優しくて、すごく眠くて。
私はそのまま眠ってしまったのでした。
* * *