おかえりなさい(完結)

□[食満留三郎] 同室だから
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 後日、食満君と善法寺君、乱太郎がお店に顔を見せに来てくれた。
 手土産を持って。

「これが、薬草?」

 善法寺君が奥の机に並べてくれたものを見て、私は目を丸くした。

「そう、美緒が使いたいのは多分蓬とか韮なんだと思うけど、他にもいろいろ持ってきてみたよ」
「薬草って、雑草だけなのかと思ってたー。
 根っことか、木の実みたいのとか、花とか、ずいぶんあるんだね」
「興味が有るなら、今度文献も持ってこようか」
「え、いいの?」
「うん、この間は本当に助かったしね」

 ほんのお礼のつもりなんだと照れた様子の善法寺君のが移って、私も少し照れてしまう。

「そ、んな、たいしたことはしてないよ。
 実際、食満君の面倒しか看てあげられなかったし」
「十分だよ。
 いつもなら、三人で一週間は寝込んでいるところが留三郎は一晩、僕らは二晩で元気になったんだから」

 それは店来た立花君や潮江君、七松君や中在家君に例の薬草を取ってきて、学校に届けてもらったからだろう。
 あれは風邪薬だったそうだから。

「御礼なら、私じゃなくて、皆に言うといいよ」
「もう言った。
 で、これがあいつらと俺らからの侘びと礼の品だ」

 ほら、と食満君が乱太郎の背を押して促し、乱太郎が何かを私に差し出す。

 それは、綺麗な花の髪飾りだ。
 普段ならつっぱねてしまうものだけど、乱太郎の不安そうな目を見て、私にできるわけがない。
 ったく可愛い後輩をだしに使って、と私が善法寺君と食満君を軽く睨みつけると、二人からは笑顔が返された。
 そりゃあ、断れるわけがないけどさ。

「ありがとう」

 私が受け取ると、本当に嬉しそうに乱太郎が笑った。

「それから、」
「まだあるのっ?」

 何かを出そうとしている乱太郎に私が驚きの声を上げて、上級生二人を睨みつけると、首を振られた。
 二人が知らないこともあるのか。

「これは、きり丸から」

 きり丸からといって乱太郎が取り出したのは、綺麗な黄色い花だ。
 たぶん、どこかで摘んできたものだろうが、色があの時を思い出させて、私を苦笑させた。

「こっちは、しんベエから」

 しんべえからといって乱太郎が出したのは、おまんじゅうがひとつ。
 しんベエらしさに、頬が緩む。
 きっと悩みに悩んで、出してきたに違いない。

「そして、これが私からです」

 最後に出された巻いてある紙を開いた私は驚きに目を見開いた。

 そこに書かれていたのは、私、だった。
 たぶん、こうしてお店に立っている時の私だろう。
 最近、きちんと鏡を見ていないからはっきりとはいえないが、かなり美人に描いてもらえている。
 小学生の絵って、こんなだっけ、と頬が赤くなってしまった私の後ろから、食満君と善法寺君が覗きこむ。

「ほう、美人だな」
「これは、よく描けてるね」
「私にはこれぐらいしか思いつかなくて」

 見れば見るほど、美人にかけているので、恥ずかしくなってしまう。

「わー、美人に描きすぎだよ、乱太郎ー」
「え、きり丸としんベエにはそっくりって……」
「よく似てるって」

 皆お世辞がうまいんなー。
 あー暑い、とパタパタと手団扇で顔を仰ぐが、全然涼しくならない。

「ところで、美緒さんは風邪とか引かなかったんですか?」
「うっ」

 痛い所をつく乱太郎から、私はあからさまに顔をそむけた。

「美緒はアレだからな」
「アレって言うな。
 言うならはっきり言ったらどうなの、食満君っ」

 お盆を振り上げても、まったく食満君が動じる様子はない。

「風邪は引かなかったけど……」

 うぅぅ、恥ずかしいが、言うしかない。

「翌日は筋肉痛で動けなかったわよーっ」

 そういうわけで、思いつきで出かけるもんじゃない、と流石に身にしみた私なのでした。






「もう少し運動しよう……」
「走りこみになら付き合うぞ」
「有難いけど、食満君たちについていける自信はまったくないから、やめとくー」
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