お題

□きっと夢中にさせるから
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「柚梨様!」

「…おや、名無しさんさん。お久しぶりですね。お元気ですか?」

「はい。柚梨様は……相変わらずお忙しいようですね…。」

「そうですね、少し…」




いつものように微笑んでいるものの、柚梨様の顔色はあまり良いものではなかった。目の下にはくっきりとクマが浮き出ている。




「あまり、無理はなさらないで下さい。…って、私が言ったところで柚梨様はお聞きにはならないのでしょうけれど。」

「いえいえ!そんなことありませんよ。ありがとうございます。」

「…たまには、私を頼って下さい。私などでは力不足かもしれませんが……私は、柚梨様の婚約者なのですから。」

「名無しさんさん…。そう言って頂けるだけで、十分です。……すみません、そろそろ戻らなくては…また、来ますね。」

「…はい。お待ちしてます。」




去っていく柚梨様を見つめる。





優しい、人だ。


戸部は人手不足だと聞いている。忙しくて、疲れているだろうに……唯一の公休日に、婚約者である私の家を毎週訪れて、両親に挨拶までしていってくれる。

この婚約は家同士が決めたことで、以前から柚梨様に思いを寄せていた私とは違い、柚梨様の意思ではないのに――




「柚梨様…――」




でも、彼のことを知れば知るほど、惹かれていく自分がいる。


少しでも、柚梨様のことを傍で支えたい。


そして、できることなら――自分のことを、本当に好きになって欲しい。


…そう、思う。





(いつの日か…)(貴方に好きになってほしいのです)

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