お題

□この恋、きみ色
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遠くから、馬の蹄の音と、怒声と……武器のぶつかり合う音が聞こえてきた。








名無しさんは、そっと目を閉じる。





遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた。

だから、身辺を整理し、身なりを整えて。


あとはただ静かに待つのみ。自分の運命(さだめ)を………。











自分は死ぬかも知れない。いや、むしろ生きていられる可能性のほうが低いだろう。

死ぬことが怖いなんて、全く思わない。





…ただ、



思い残したことが、たった一つ。





運命を受け入れ、心静かに座している今この時でさえも思い浮かぶのは、たったひとりの後ろ姿。










「行ってくる。」








そう、一言だけを残して…死に戦も同然の戦場へ出て行った、少しだけ年上の従兄弟。





伝えたことはなかったけれど…彼に抱いていた想いは、その強い意志への憧れと




慕わしさ。









私の、最初で最後の初恋は……きっと、彼と同じ誇り高い紫色だったろうと思う。









いっそう大きくなった戦の喧騒に、ふ……っ、と息を吐き、


遠く戦場にいるだろう彼を想う。








(再会は願わないから)(どうか愛しい貴方に御武運を)
 

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