お題
□この恋、きみ色
1ページ/1ページ
遠くから、馬の蹄の音と、怒声と……武器のぶつかり合う音が聞こえてきた。
名無しさんは、そっと目を閉じる。
遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた。
だから、身辺を整理し、身なりを整えて。
あとはただ静かに待つのみ。自分の運命(さだめ)を………。
自分は死ぬかも知れない。いや、むしろ生きていられる可能性のほうが低いだろう。
死ぬことが怖いなんて、全く思わない。
…ただ、
思い残したことが、たった一つ。
運命を受け入れ、心静かに座している今この時でさえも思い浮かぶのは、たったひとりの後ろ姿。
「行ってくる。」
そう、一言だけを残して…死に戦も同然の戦場へ出て行った、少しだけ年上の従兄弟。
伝えたことはなかったけれど…彼に抱いていた想いは、その強い意志への憧れと
慕わしさ。
私の、最初で最後の初恋は……きっと、彼と同じ誇り高い紫色だったろうと思う。
いっそう大きくなった戦の喧騒に、ふ……っ、と息を吐き、
遠く戦場にいるだろう彼を想う。
(再会は願わないから)(どうか愛しい貴方に御武運を)