お題

□公認ストーカー
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「ちょっと名無しさん!貴女一体何したの?!」

「……へ?」





ある日の昼下がり。

夕飯の買い物に出た名無しさんは、同じく買い物に来ていた友人である紅秀麗に偶然出会い、目が合うなり物凄い剣幕で詰め寄られていた。




「何が?」

「何がって……もしかして名無しさん、知らないの?」

「だから、何をよ。」



訳が分からず聞き返した名無しさんに秀麗は微妙な顔をした。



「名無しさん…貴女、この辺りで“怪音の美女”って呼び名付いてるわよ……。」


「………はぁ?」



予想もしない秀麗の言葉に、名無しさんはぽかんと口を開けた。




ナゼにそんなあだ名が。
何もした覚えは無いんだけどなぁ…と首を傾げる。


そのとき、通りの向こうのほうがざわつき始めた。何やら人が散っていく。





「あ、この音…」


パッと嬉しそうな顔になる名無しさんとは対照的に、秀麗はぷるぷると震えている。


その間にも奇妙で、しかも耐え難い音色は近づいてきて……










「おお、こんな所で出会うとは何と言う運命。久しぶりだな、心の友其の一。そして名無しさん。」




「………原因はあんたね龍蓮ーーッ!!」



人が消えた大通りに、秀麗の怒鳴り声が響き渡った。









「む、何がだ」

「あんたの笛のせいで、名無しさんに“怪音の美女”なんていう変な呼び名が付いちゃったじゃない!」

「なんと!風流な呼び名だ。心の友其の一、その呼び名を付けた風流人の元へ案内してくれ。礼に新曲をひとつ…」


喜々として語り始める龍蓮に、秀麗は再びわなわなと震え始める。



「ちょっと秀麗、落ち着いてよ。」

「止めないで頂戴、名無しさん!」




「……もう。」



秀麗は堪忍袋の緒が切れると手の付けようが無いんだから…。
仕方ないなぁ。




「ほら秀麗、怒ってないで早く買い物して帰らなきゃ。そろそろ日が暮れるわよ。

龍蓮は、今日も夕飯食べて行くんでしょう?だったら風流な方を訪ねるのはまた今度にしたら?」



正論を突き付けられた二人はぴたっと動きを止める。

「そうだな、お邪魔しよう。」

「……そうね。仕方ないわ…そろそろ帰らなきゃ。」











見事な手綱さばきで喧嘩を解決?した名無しさんは秀麗と別れ、龍蓮と並んで歩き始めた。







「龍蓮ったら……わざわざ笛を吹きながら離れてついて来なくても、こういう風に並んで歩けばいいでしょ?」

「……そうか。そうだな。」



心なしか龍蓮の声が嬉しそうに聞こえたのは、多分、気のせいでは無いだろう。





「名無しさん、今日の夕餉は鶏鍋を所望する。」

「真夏なのに?……まぁいいわ、ちょうど鶏肉買ってきたし。龍蓮も手伝ってよ?」

「もちろんだ。」







(言わないけど)(貴方が後ろに居るのも)(笛の音を聴くのも)(大好きなんだよ)
 

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