お題

□バカ、意識しすぎ
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宰相に任じられてからもうすぐ一年が経とうとしている。


国もすっかり安定しつつあるが……






俺はまだ、悠舜様の足元にも及ばない。




庭の端に咲いている彼岸花をみて思う。







「まだまだ、だな俺も。…………さて」



そろそろ、朝議の時間だ。
……俺は、俺が今できることをするだけ。

王の為に。
国の為に。


決意新たに歩き出したとき。








「危ないっ!!」





「…………っ!?」







俺は、ドンッと思い切り突き飛ばされた。

突然の出来事に、受け身を上手く取れず、回廊の床へしたたかに背中をぶつける。






「なんだ、一体………っ!!」




先程まで立っていた場所に矢が突き刺さっているのが目に入った。

あの場にそのまま居たなら、今頃自分の命はなかっただろう。

その危機から救ってくれた相手が立ち上がる。




「誰か!!侵入者だ!西門に向かって逃走!必ず捕らえろ!」


「は!」



何処からか現れた羽林軍兵がすぐさま走っていった。






「ご無事ですか!?」

「あ、あぁ、大丈夫だ。」

「そうですか…よかったです。」



先程までの険しい表情が消え、ホッとしたように微笑んだのは、数少ない女性武官の一人だった。



「おかげで命拾いをした。ありがとう、礼を言う。」
「いいえ。これが私達の仕事ですので…ご無事で何よりです、李宰相。」


「…確か……、」
「名無しさん!侵入者がいたとか。状況を……って、絳攸?!もしかして襲われたのって…」


騒ぎを聞き付けてやって来た楸瑛が、厳しい表情になった。



「宰相を狙うなんて…一体誰が……名無しさん、直ぐに主上に報告を。城の警備を強化する。」

「はい。…それでは李宰相、失礼致します。」




そう言って、彼女は素早く駆けていった。







「楸瑛、今のは……」

「ん?あぁ、彼女は司馬名無しさん。右羽林軍副将軍だよ」

「ああ、司馬家の………なに、副将軍?!それはすごいな。」

「腕は確かだよ。今も、君を庇ったんだろう?」




「……ああ。」



「………絳攸?」



何だかぼんやりとしている絳攸を不審に思い、声を掛ける楸瑛。





「……そうだ、朝議の時間だったな。」

「ちょ、絳攸…君……?」

「じゃあな」
人の話も聞かず(聞こえず?)歩き出したその足取りは、


何だか不自然だった。





「……一目惚れ、ってやつかなもしかして。どちらにししても…」



わかり易すぎだよ、
絳攸………―――



楸瑛は、やれやれと苦笑した。





(いつも冷静であるべき宰相の)(遅い初恋が、)(始まる予感)
 

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