短編
□前代未聞
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「ひ……っ!た、助けてくれ!お願いだ、見逃してくれ!金ならいくらでも…」
醜い。
捕縛されてからも叫び続ける男に、清雅は冷めた目を向けた。
今まで裏で働いてきた悪事は数え切れず、善人を利用し、嘲笑って蹴落としてきたこの男。
何百回と自分に向けて言われたであろう懇願の言葉を、切って捨てていた自らが何を言っているのか。
「……連れて行け」
「はっ!」
わざわざ返事をする価値も無い。清雅は下吏に指示を出し、しなければならない事を頭の中に思い浮かべる。
「……そういえば……―――」
娘が一人、いたんだったか。
調書の内容を思い出して呟く。
参考人として、接触しないとな。あの男の娘だ、どうせろくな女じゃないだろうが……。
元々女と関わるなんて死んでも嫌だが、しかもあの男の娘となったら更にごめんだが、………しょうがない。
清雅は、明日のことを考えて一人眉を寄せた。