小説部屋
□Happy Birthday for 碇ユイ
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ひっそりと、ただそこには、十字架が並んでいた
大量の十字架
ただ、そこにあるだけのもの。
その中の1つ。
その前に、碇ゲンドウは立っていた。
目の前の十字架に刻まれた文字を見つめ、ただの張りぼてである墓に、ゆっくりと触れた。
その地に、ゲンドウ以外の鼓動はない。
…なにもなかった
無であった
しばらくして、ゲンドウは墓から手を離すと、もう片方の手に握っていたものを、静かに置いた。
ガサリと、袋がなる。
中から覗いたのは、白地に薄桃色の入った、クレマチスの花であった。
「お前の花だ…。ユイ」
ゲンドウがゆっくりと立ち上がると、それとほぼ同時に、その場に似つかわしくない轟音が響いた。
同時に、強風が体をすぎて行く。
NERVの航空機が、ゲンドウを迎えにきたのだ。
ゲンドウが航空機に乗り込むと、副司令である冬月も、それに乗っていた。
「少し早かったかね?」
冬月が訪ねるが、ゲンドウは航空機から外を眺めたまま、「いや…」と、無愛想に答えた
「…良い頃合いだ」
「そうか…」
その後、2人の間で会話が交わされることはなかった。
なにもなかった無の墓場に、クレマチスの鼓動が、一つ。
終