白衣の帝王

□それぞれの気分
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「保健医、補佐……」
「これは決定事項さ。何が何でもなってもらうよ。」
「え、えぇー……でも……」


と、なまえは頬を膨らませる。不服そうにとかそんな軟なものではない。吐き気を催した故だ。

「何度も言わせるなよこの愚鈍。君に拒否権などあるわけがないだろう?」
「(うふーー)」


なまえは声すら出せず膨らした頬の空気を吐いた。

決定事項と言ってもそれ『※リドル先生脳内に限る』ですからァ!

そう心の中で叫ぶなまえは、今なら林檎を軽々捻り潰せたかもしれない。


「あれっ?……ちょっと思ったんですけど、」


なまえは不意に口を開くと、顎に手を当て、首を傾げた。


「保健医補佐って、先生が成立させたんですよね?でも、どうやってそんな制度作ったんですか?“僕一人では、仕事が多すぎるー”とか言ったり?」
「まさか。」


リドルは即座に否定する。


「どうしても保健室で仕事がしたい、と懇願している生徒が居ると話したのさ。」
「ゑ、」


なまえはタラリと、冷や汗を流した


「あのー……それって、もしかして」
「勿論、君の名前を借りたよ。」


リドルは造作も無く言ってのけた。そしてチラリとなまえを流し目で見る。


「僕の下僕なんだ。当然のことさ。」
「(人権ッ!)」


なまえの心の悲痛な声など届く筈も無く、リドルは涼しい顔で本に目を落としている。しかし不服そうな気配に気付いたのだろう。リドルは突然腕を伸ばし


「むぅッ!」


なまえの頬を掴んだ。驚くのも束の間、リドルはその端正な顔をズイとなまえに寄せる。そしてその蒼い瞳を見詰めると、スウと目を細め、唇で優雅な弧を描く。


「“愚の骨頂”と呼ぶに相応しい君が学年上位の成績を残すなんて、まさに奇跡に等しいねぇ?」


……何この先生めっちゃ楽しそう。

なまえは「むむむ」と蛸のような口を一生懸命に開く。


「じ、じゃあ撤回しちゃえばいいじゃないですか。」
「誰に口を聞いている?」


リドルはグニグニとなまえの頬を掴んだ指に力を入れる。その強弱に合わせ、「うわん」となまえは苦しそうに眉を歪めている。


「君は下僕。―――つまり、この僕の為ならば、奇跡さえ起こさなくてはならないのさ。」


それでこそ、僕の下僕に相応しい。
リドルはそう残して、なまえの頬から手を離した。そして「ふ」と少し笑みを漏らす。


「さあ、これで君は、公的にも僕の下僕だと言う訳だ」
「せめて“補佐”と言ってください、先生!」


なまえの涙声など、やはり柳に風と受け流す。そんなリドルは根っからの鬼畜だと、なまえは確信した。


「先程から不満ばかり漏らしているが、君はもっと喜ぶべきさ」


なまえは内心「んん!?」と眉を歪める。それは反抗心からではなく、心底湧き出る疑問からだ。


「保健医補佐になりたい人間は、塵のように存在するからね」
「塵って先生」
「ではゴミだ。」
「……」


先生それ悪化しています!


「でも、それにしても急展開じゃないですか?さっさと制度加えちゃうだなんて」
「君に話す義理は無いよ」


無愛想に言うリドル。
つい先程は(リドルにしては)あれほど説明したというのに、今はこんなにも素っ気ない。どうやら物事は、彼の気分次第の様だ。
しかしそんなこと、なまえには解せない。


「ありますよ先生、義理しかないです」
「知った所で所詮、君に現状を覆す事等出来ない」
「じゃあ話してもいいんじゃないですかーなんて」
「面倒臭い」
「(なんと!)」


どうやらそちらが本音のようだった。……というか、むしろ最初からそう素直に言ってしまえば良い気もする。リドルはこういう所でさえも素直ではないのかもしれない。


「では聞くけど、そこまでして事の全形を知りたいのかい?」
「う―――あれっ?」


なまえは思い切り顔を顰め、腕を組んだ。
しかし次にはあっさりと腕を解き、リドルを見詰める。


「そうでもないです。」
「……」


無駄に凛々しく言ったなまえに、リドルは閉口した。






















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図書館「(この人達ずっといるなあ。)」



        
       

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