白衣の帝王

□お仕置き
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「―――すよ。」


ボソリと呟いたなまえに、リドルは「ん?」と視線を投じた。なまえは俯いている。


「無理ですよ、先生。先生は私が如何に勉強をしないかそして点数に興味が無いかっていうかぶっちゃけ点数を取れないか、知らないからそんなことを言えるんですよ。」


口を尖らせたような声。俯いたまま斜め下を見ている。
リドルは視線を体ごとなまえから外し、机に両肘を付く。


「なんて言うか、あれ。私ってホンット勤勉から程遠いもう真逆の所に居るんで。致命的なんで。主に数学とか。勉強しても頭に入らないんです。もうあれです。私人より脳みそ退化してるんで。」


相変わらずボソボソと繰り返すなまえの隣で、リドルは机に置いてある羊皮紙を見た。


「脳みそ退化……へっ。そうですってそれですよ本当に。へへっ。」


ついに卑屈な笑みまで浮かべ出したなまえ。しかしリドルは目もくれず、その羊皮紙に手を伸ばす。


「……聞いてますか、先生。」


―――リドルは華麗にスルーした。
なまえの眉がヒクつき、グググと寄せられた。


リドルはその羊皮紙を眺める。そしてインクのシミが誤って付いている、その小さな点も目ざとく見逃さない。














「聞いてますかって言ってんじゃん」











シン、と静まった。



「(やっ……ちゃったよこれは……)」



なまえは俯いたまま冷や汗を流す。
耳を欹てても中々聞こえないような小さな声だったにも拘わらず、それでもやや動揺した。


が。


リドルの表情は、別段普段と変わらない。
その整った顔立ちにランプの灯りが揺れようと、戦慄を覚える様な不穏な影は見当たらなかった。
相変わらず羊皮紙のシミを見ていた。
そして不意にそれを丸める。


「……?」


トントンと軽く肩を叩かれ、なまえはその安堵した顔を上げる。
その瞬間。



「―――モガっ!!?」



臆面も無くその口へ突っ込んだ。


「ん!んんん!!!」


なまえは苦しげに眉根を寄せてはもがいた。





















―――しかしそこで止めるリドルではない。


最終鬼畜リドル先生は、そのまま手を離さずに、グイとなまえの口を押さえつけた。


「んん゙!?」


なまえは目を見開く。
しかしリドルは目もくれず、さらに空いた方の手で後頭部まで押さえつける。
……物凄い力でそうも無慈悲に押さえられては、その羊皮紙を吐き出す事が出来ない。


「もがっ!もがgおぅぅ……んぐぐががが!!」


一瞬吐き気を催したなまえ。
リドルは手を離さないまま「ハンッ!」と鼻で嗤う。今渾身の力を使っているため、その嘲笑はいつもよりも荒い。両手を使っている故の近距離。前髪から覗く上目使いに、なまえは戦慄を覚える。覚えるどころか焼き付く。


「性に合わず芝居を打って、同情を誘い呆れさせては諦めさせるつもりだったのかい?なまえ。」


バ、バレてた……!!


なまえは冷や汗で心の中が大洪水だった。箱舟さえ水没した。
その距離でリドルは、じっとなまえの双眼を見た。なまえは生理的な涙を浮かべている。


「―――ああそうか。空腹なんだね。」
「!?」


突拍子もない事を言われ、なまえは一瞬怯んだ。

それでも、何だか嫌な予感がしている。
なまえが違う違うと首を振った刹那、



リドルはグイと、なまえの顎を上に向けた。






あ―――

















ゴクリ、という音。

















なまえは目を見開いていた。
ス、とリドルは手を離す。その視線はすでに、本へと向けられている。

なまえの大きな瞳に、その手が離れて行く様が映っている。


「え……」


掠れる様に呟いて、みるみる顔が蒼褪めて行く。
リドルは何事もないような顔で、また本へと向き合った。
なまえはパチリと瞬きをし





「おぅううううううううぅぅぇえええっ!!!!」




咽を押さえて上半身を倒す。
リドルは露骨に顔を顰めてなまえを横目で見る。



「不快な声を出すな。」
「だって今!!!!」



なまえは目に涙を溜めたまま、勢い良く上半身を起こす。


「せん……先生どうしよッ!?」


なまえは絶望的な目をしていた。冷や汗が凄い。


「今のは流石にありえないですって!!咽チクチクしましたって!!!」
「ああそう」
「途中で離せば間に合ったのに!!」
「どうして僕が君が汚物を吐く様を見届けなければならない?そんなのは御免だ」
「じゃあ先生は人間が紙を食べる様が大好きなのですね!?」


支離滅裂な発言にリドルは一瞬、二の句を継げなかった。


「飲んじゃいましたッて!!今!!」
「!」


なまえが凄い勢いで腕にしがみ付いた。リドルの体が揺れる。


「最高の喉越し所の騒ぎじゃないですよ!?」


捕まれた白衣が皺だらけになっている。リドルはやはり本に目を落としているものの、地味に白衣を引っ張って皺を伸ばす。その力に比例して、なまえの拳も固くなって行く。


「見れば判―――っ」
「出てきませんって!!」


なまえの顔は蒼ざめながらも、興奮に赤くなっているようにも見える。というかもう焦り過ぎて半ギレにも見えてしまう。

リドルは抵抗して白衣を引っ張っているものの、内心なまえの力に驚いていた。負けず劣らず引っ張るなまえの馬鹿力とそれに抵抗するリドルの力に、白衣が悲鳴を上げる。


「どどどどどうするんですか!?」
「フン。元はと言えば君が悪―――」
「消化されるんですか!?ちゃんと!!」
「別に身体への害は無―――」
「死ぬまで消化しないとかだったら私、私――」



プツン、と静かに血管が音を立てた。




刹那、ただでさえ敏捷なリドルが尋常じゃない速さでその腕を伸ばした。


「いい加減にしろ。」
「グブッ―――!!」


リドルはなまえの顔面を、真正面から掴んだ。もう握り潰す勢いだ。
余りの力に、なまえは光の速度で意気消沈した。肝は冷える所か凍結している。

リドルはそのまま、大人しいなまえの耳へ唇を寄せる。
その表情にはハッキリと、憎悪の色が浮かんでいた。不自然に上がった口角は、ヒクついてすらおらず、綺麗な弧を描いている。


「愚鈍な下僕に主張権はあったかい?」
「い、いえ……」
「発言の矛盾は虫唾が走る。―――もう一枚と言わず、その腹がはち切れるまで食べさせてあげようか」
「……」




すみませんでした……と魂の籠った声。
リドルがゆっくりと手を離すと
そこには―――怯えきった、下僕の顔。




















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流石最終鬼畜リドル先生、
精神攻撃半端ないです。

そしてお陰で話が進まないあたりも最終鬼畜。
             

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