白衣の帝王
□私情まみれの意図
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「保健委員になれ」
そ―――
なまえは目を見開いたまま、固まってしまった。しかし当然ながらリドルはそんななまえに目もくれない。当たり前の如く無視したリドルは、軽く顎に手を当て小さく首を傾けると、独り言のようにこぼした。
「いや、“委員”と言えば語弊があるな」
そこでもう一度、なまえへと向き合う。
「正確には保健医補佐だ。」
そ―――
「君は来年度から、晴れて保健医補佐となるんだ。」
そ
「来年度、つまり来月からだね」
そ―――
「そ!!!」
まるで落雷のように突然机を叩きながら、なまえはいきなり大声を出した。あまりに急だったためリドルはちょっと驚いて、若干、ほんの微かに、一瞬身を固くした。そしてそんな自分に気付いては、密かになまえ睨んだ。
なまえはそんな事など露知れず、ただただ驚いていた。
驚いていたものの……
「あれ……?」
今度は眉を寄せて、ゆっくりと首を傾げた。
そしてリドルを見上げる。
「でも、先生。保健医補佐って……何ですか?」
そう、なまえは何か決定的なことを言われた気がして直感に身を委ね盛大なリアクションをとっていたものの……ぶっちゃけ何の事かピンときていなかったのだ。
「君はそんなものも知らないのか」
「痛ひんっ」
リドルはなまえの額を指ではじく。
「まあ、知らないのも無理はない。これは僕が考案し、今日成立した制度だからね」
「え。」
じゃあ知ってる方がおかしいじゃないですか!!とあまりの理不尽さに血液的な何かを吐き出しそうだった。そして何より理不尽なのは、痛む額。私何のためにデコピンされたのっていうかこの先生本気になればホグワーツなんて我が物に出来そうなんですけど。
「保健医補佐とは文字通り、僕の雑用係さ」
何か文字通りではない気もするが、リドルは続ける。
「仕事は今君が行っているものと大差ない。」
「じゃあ、」
なまえは首を傾げる。
「別に、わざわざそんな制度作らなくったっていいんじゃないですか?」
「君は相変わらず愚鈍だね」
いいかい、とリドルはなまえを見下ろす。
「君は実質下僕であったとしても、一般から見ると単なる生徒でしかない。単なる生徒である君が保健室にしょっちゅう足を運び――これはまぁいいとして――さらに雑務をこなし扱き使われている様を度々目撃されたとすると―――」
「いずれ神様の様な人が救いの手を差し伸べて下さる筈ですね゙んん゙」
リドルは無言でなまえの足を踏んだ。
「不審がる奴も中には出てくる可能性があるんだ。しかしそれが公的な役割だとすると?」
なまえは嫌でも「あ゙」と閃いた。
例えば、そう。何か重たい物を運んでぜぇはぁ言っていたとしても「保健医補佐だものね仕方ないね」と言われ、嫌々仕事を押し付けられたとしても「保健医補佐だものね仕方ないね」と言われる。理不尽に仕事を与えられても「保健補佐だm(以下略)」と言われ、ボロ雑巾のようにくたびれていても「保(以下略)」と言われ……
救世主たちは皆、リドル先生の味方をするのだ。
なまえはサッと、顔を蒼くした。
色の無い目で見上げると―――
「その通りさ、愚鈍。」
「!?」
―――大正解だった。
薄ら不気味な微笑を浮かべ、嗤うリドルと目が合う。
なまえはその、リドルの私利私欲私情まみれの意図を目の当たりにして、そしてその為に何のためらいも無くなまえを犠牲とするその鬼畜精神を目前にし、絶句した。そもそも生徒に“下僕”だなんて言っている時点で最終鬼畜だと銘打っていたが、鬼畜に終わりはないらしい。
なまえは「鬼!外道!」という言葉をを浮かべる余裕さえないらしく、弱弱しく途切れ途切れに「あ……あ……」と何度か呟いた後、肺に酸素を取り込んだ。
因みにリドルさん、先程の失敗を繰り返さぬように、俊敏な反射神経を持って大声に備えた。
「なん……何ですかその素晴らしい急展開はぁ……」
「何だい?その情けない声は」
しかしなまえはリドルの予測に反して、死に際の蚊のように弱々しい声で言った。リドルは一瞬だけ、つられたように気が抜けて、思わずそう口にしてしまった。
「それに、素晴らしいならいいじゃないか」
はいはい素晴らしいです!!
なまえの目が充血する。
そして苦々しく、イーと唇を横に広げる
「い―――」
「嫌だ、なんて言葉は通用しないよ」
リドルは本に視線を落としたままそう言った。
思いがけぬ事になまえは息を詰まらせた。
―――全てお見通しなのだ。
ありありと実感したなまえは悪寒がした。
そして
「サッカーやろうぜ!」とか言いながらハリウッド映画の如く窓ををぶち破っては2,3回回転し今すぐこの手を取ってくれる誰かが現れてくれないかなーとか思った。
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ゴールキーパーの登場ですね!
保健委員改め、保健医補佐について、
今回明らかになった事とは
“リドル先生の意図”ですね。(た、多分。)
保健医補佐についての説明はまだ続きます。
それはまた次回にて!
と、前回と言い今回と言い
予告っぽい事を書いてみたり。(ノリノリである)