白衣の帝王
□まさかのストック制
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例まで用いて一生懸命説明していたにも関わらず唐突に抓られたなまえ。
……やべぇ!
前から思ってたことだけどこの先生やべぇ!痛みよりも主に目がやべぇ!!
なまえはヒリヒリ痛む頬を撫でながら、リドルを見上げ固まっていた。
リドルはフンと鼻を鳴らすと、何も言わずに机へ広げた書物に目を落とした。
その様子を確認したなまえは大きく欠伸をすると、再び机に両手を投げ出し顎を置いて、くつろぎ始める。
リドルは視界の隅でチラリと捕え、呑気な奴だと少し呆れた。
「……珍しく来なかったね」
ポツリと零された言葉に、なまえは顔を上げる。
「へ?」
「今日。保健室。」
そのリドルの表情からは、何の感情も読み取れない。普段の彼は言うまでも無く表情に乏しい。
なまえは宙を見上げたまま「あー」と気の抜ける声を漏らした。そして、ワンテンポ遅れてピクリと顔を上げる。その表情は、見る見るうちに得意顔になった。
「そうです!今日は一度も、一回たりとも怪我しなかったんですよ!!」
ふふん!と鼻を鳴らす背後で『どやっ』と文字が具現化している。
“一般人にとっては毎日怪我をする方がおかしい”という常識はなまえさんの頭に無いらしい。
「……“一度も”?」
「イエス!」
本当かい?と訝しげな視線を向けるリドル。
……え。リドルさんの頭からも“一般人にとっては毎日怪我をする方がおかしい”という常識が消えている。
「毎日怪我をする方がおかしいよ」
しかしそれは一瞬の出来事で、常識はしかとリドルの頭に戻った。
リドルさん今、軽く咳払いをしましたね。
***
なまえがもうそろそろ本格的にウトウトし始めようとした頃、リドルは不意に、少し何かを考えるような仕草をし、なまえの腕を見た。そして
「!?」
ペーパーナイフで軽く切った。
「な、何するんですか!?」
うとうとと夢心地で心地よくくつろいでいた矢先にこれだ。なまえは驚きを軽く超えた表情で「傷害罪だろこれ!!」と冷や汗を流し飛び起きた。
「明日の分さ。」
「トゥ、トゥモローランド!?」
「(ランド?)明日は保健室へ来るように」
先生は理解の追いつかない私を見事に無視し、また本を読み始めた。
明日の……ということは、え、怪我ってまさかのストック制!?トゥモロー!!
「ちょそんなルール知らな―――」
「君が知らないだけさ。」
「えぇ!?」
駄目だこの人どこまでも一方的だ……!
共有とか共感とかそういう人間的概念が無いよこの人!!
「―――ま、こんな小細工、これからは不必要だけどね」
リドルは書物から顔を上げた。
「それは、」
なまえはその様子を目で追いながら、かろうじて唇だけを動かした。嫌な予感を膨張させながら。
「一体、どういう―――」
リドルは静かに見下ろす。
目を合わせる。
不意にフッと優しげな微笑を浮かべたかと思うと、次の瞬間再び冷たい口許に戻る。
そして突き放すように言った。
「保健委員になれ。」
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折角保健室へ行かずに済んでいたのに
なんやかんやで結局こんな目に遭うなまえさん(笑)
さて、
保健委員とは一体どのようなものなのでしょうか。
そして、先生の目的とは?
それらの説明はまた、次回にて。