ハリポタ

□君と僕との関係は
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そいつはまったく、
呆れ返る程に僕へ絡んできていた。






僕が4つになった頃に孤児院へ来て以来、ずっと。


何をしても、何処に居ても、仮に少しでもそいつの視界へ僕が入ってしまったなら、必ずそいつは僕の元へやってくる。そしてベラベラよく喋り、笑い、感情豊か情緒豊かに表現し――つまりは煩かった。


そいつ――なまえは、
漠然と冷たく暗い孤児院に、なんだか似つかわしくない奴だった。


そんな奴だからなのか何なのか、孤児院でなまえは浮いていた。
人懐っこく人間臭いなまえならば、もっと皆とベタベタしていそうなものだったが……不思議なことに、そうではなかった。なまえが避けていたのだろうか。
真実は分からないが、兎に角なまえは一人で居ることの方が多かった。


……最初は、
孤独を紛らわすために、同じように一人で居る僕を利用しているのだと思った。辛気臭い顔を隠して居たって、人間なんてそんなものだ。だからこそ僕は、初対面から厚顔無恥で、がめつく厚かましく図々しいなまえを全力で無視した。無視し続けた。頑張って無視し続けた。それでもしつこく手が出た――手というか魔法だったのだが――しかしなまえが超次元的アホであったので、虚しいことに効果は無かった。

いつの間にか僕は、怒りを通り越し呆れた。呆れ返って無視とは別の意味で無言になっていた。文字通り閉口したのだ。


そんな僕が、口を聞くようになったのはいつだったか―――





























「私が孤児院の先輩をぶん殴ってリドルがドン引きしたときからじゃない?」











バリバリと菓子を頬張りながら、下品でだらしないこと極まりない様子でなまえが言った。僕は「――えっ?」と、少し高い声が出た。こんな声、人前じゃあ絶対に出さないがなまえのだらしなさが伝染した所為で。妨害電波のように迷惑な奴だ。


「え?“そもそも僕は何故君と口を聞くようになったのか”って話でしょ?」


自分でそう言ったじゃん、となまえは不自然な姿勢で長椅子へ寝転がった。不自然な割に心地よさそうにだらけているのだから、器用だ。




僕は頬杖を付きながら、「そうだったか?」と窓の外を見た。
……そうだった。



それは、そう。
孤児院の先輩……もとい面倒臭いこと極まりない、図体がでかく年上だというだけでやたら威張り散らし、脳みその芯まで発泡スチロールで出来ていそうな馬鹿だった。そいつに、日頃腹を立てていた僕と――なまえ。
一瞬だった。
僕は体中の血を滾らせ、腸は煮えくり返り、だけど――静かな怒りを、指先に込めて睨み上げようとしたとき―――


突然、僕の後ろから風が舞った。
落ち葉がやたら大きな音を立てて地面から吹き荒れたかと思うと―――









バキッ








と、まるで枝でも折れたかのように大きな音がして
瞬きをするとそこには、仁王立ちしているなまえの背中があったんだ。妙に雄々しい背中をしていて、大地ににしっかりと付いている両足は、獰猛な肉食動物のそれだったと思う。後ろからでは表情を見ることが出来ないが、白目を剥いた地獄の悪魔よりも酷いのだろうと安易に想像できた。

足元に倒れているそれは、ブルブルと痙攣し、やがてなまえに踏み潰された。


それで、僕は……目を見開いたまま、唖然としていたんだ。
忘れもしない。
“蒼ざめる”に似た感覚。けれどどこか乾いていて、主観というより客観に近い感覚。







――“ドン引き”というらしい。
















思い出した僕は、過去の出来事だというのに閉口した。
いつの間にか頬杖から頬が離れていて、ゲンナリに近い無表情になっていた。なまえはそんな僕に気付くと、ゲラゲラと笑った。


「それからそれから、リドル君は私とお話をするようになったのでしたっ」
「呆れ、罵り、嘲笑するようになった、の間違いだろう」


実際に僕は、何だかそんな気がする。


「えっ?割とそれ以外の反応を示すこともあるよ」


なまえはグルリと身をよじらせ、長椅子から上半身を起こした。こいつが今までどのような姿勢で寝ていたのかいまいち判らない。
それにしても……誰も居ないとはいえ、ここは図書館だ。平然とだらしない姿勢をとるこいつには、恥じらいというものが無いのか。


「それ以外の、反応?」


ねっとりとした物言いは、苦々しい声となった。


「何かの間違いだろ」


なまえは罵倒も良いように聞こえてしまうアホで壊れた耳を持っているから、と付け足せば、笑いながら礼を言ってきた。ほらみろその耳はやはり壊れている。


「例えば、私もホグワーツへ行く事になったときとか――」
「やめろ気持ち悪い。おぞましい記憶が甦る。」


僕は急いで、その時の思い出を掃いた。


「結局、結構長いこと一緒にいる訳ですが」
「不可抗力でね」
「育った場所も一つ屋根の下、学校でも一つ屋根の下、」
「寮は違うだろ」
「夏休みの帰省となればまた一つ屋根の下」
「部屋は違う」


否定する僕に、なまえはまた笑った。否定されて笑うなんて意味が解らない。なまえは妙な節で「てれてんのー」と言ったが、「テレテンノ」とは何だ……?


「そんな私たちの事、世間では幼馴染というらしいよ」
「……断る。」
「何に?」


そんなの世間に、に決まっているだろうこの愚鈍。
世間に断るなんて意味が解らない、と言うかもしれないが僕に出来ないことなど無い。


「でも私も同感だなー。“幼馴染”なんて言われても、なんだかなー。」


――その言葉に、僕は危うくインクを零す所だった。
意味が解らないが、確かに僕は手元が狂ったのだ。
しかし最も意味不明なのは、手元よりもなまえの言葉に集中している僕だった。


「しっくりくる関係って、なんだろうねぇ」
「……」


なまえが隣に座り、顔を近付けてジロジロと眺めてくる。


「近いな鬱陶しい」
「うひゃー」


頬を押しやると気の抜ける奇抜な声を出しながら、なまえは笑った。僕は無言で押しやったが、ここでイラッとした。


「いい加減に――、っ」


突然、両頬を掴まれた僕は息を詰まらせた。


「リドルと私の関係」


じっと見つめるなまえに、胸がざわつく。




な、何だ……?




疑問から来る動揺、というか冷や汗というか、良く判らないまま。



「関係、というか。リドル、」



真っ直ぐに見つめるなまえを



「リドルは、私にとっての―――」




―――僕もまた、見つめ返す。































「最高で最愛の、友である!」























なまえは高らかに言うと、笑った。





















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リドルさんが長年なまえと育ったせいで
良い具合に壊れている様子。

歪んで見えるかもしれないけれど
立派な友情が成り立っているというか……
悪友ですね(笑)
書いていて楽しかったです。

そして……


皆様お久しぶりですねーーーーーー!!!!!(大歓喜)


     

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