ハリポタ

□思い出(大惨事)
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「豊かな幸運の泉ー……かあ」
「……何だい、それ」

ほえー、とソファーで紙を見ながら呟いたなまえをリドルが覗きこむ。
どうやらそれは、パンフレットの様だ。

因みにここはスリザリンの談話室と全く同じ部屋構造だが、必要の部屋である。
ここだと誰にも邪魔されないので、リドルは大抵この部屋に居る。

「クリスマスの催しに、吟遊詩人ビードルにある「豊かな幸運の泉」の劇をするんだって。」
「吟遊詩人、ビードル……?」
「私もよく知らないけど、誰でも知ってるおとぎ話らしいよ。」

有名であるはずのこの物語を、なまえもまた知らなかったのである。
そのことを言うとあまりにも驚かれたため、なまえはその本を最近読んだ様子。

『おとぎ話』と言う単語を聞いて、リドルは小ばかにしたように鼻で笑った。
そんなリドルを見て、なまえは
「(よし、誕生日プレゼントはこの本にしよう)」
と嫌がらせ紛いの考えをめぐらせた。悪気があるのか否かは良く解らない。

なまえは紙に目を戻す。

「えっとー……監督は薬草学の教授、ヘルベルト・ビーリー先生。」
「ああ。彼は確か、熱心なアマチュア演出家だったな」
「何で知ってんの?」

ニコリと、リドルが微笑んだ。なまえはおとなしく口を紡いだ。

ああ、ね。うん。
リドルの情報網はすごいもんね。

「それで、特殊効果はダンブルドア先生」
「……」
「はいそこ!あからさまに顔をしかめない!」

誰も居ないため思い切り苦虫を噛み潰したように顔を歪めたリドルに、なまえがびしっと言った。

「でも先生が特殊効果なら、きっとすごい演出になるんだろうなー」

なまえはキラキラと目を輝かせていった。リドルはつまらなさそうに聞き流す。

「という事でリドル!見に行こうよ。」
「……言うと思ったよ。」

とかいいつつ、リドルは重たい腰を上げる。
なまえは心底わくわくした瞳で、リドルの腕を引っ張った。

「因みにもう始まってるよ!」
「それ、今更言うの?」


***

舞台の中に広がるのはまるで本物の様な草花や空、おまけに光り輝くキラキラとした光の粒が散りばめられていた。まるで絵本の中の様な光景に、なまえは息をのむ。
席は満席で、なまえとリドルは一番後ろの壁際に立つ。
リドルにとっては都合のいいことに、途中で入ってきた2人に誰も気づかないので、無駄に話しかけられたり人だかりが出来なくて済んだ。

なまえが胸の前でパンフレットを握り締め、楽しそうに目を輝かせていた。
そんななまえをリドルは見た後、微かに口元で弧を描き、腕を組んでは壁にもたれた。
なまえはもう一度パンフレットを開き、配役を読んだ。

「アシャ、アルシーダ、アマータの役はルミー、ローラ、エイミー。ラックレク卿はルビックが演じてるんだって。美男美女揃いだね」

リドルは興味なさそうに返事をした。そして、2人同時に目を向け、
二人同時に石化した。

舞台にでっぷりと君臨した巨大芋虫。
無駄にリアルでギチギチと奇妙な鳴き声を漏らしている。

……きもい。
気持ち悪い。

おとぎ話って、なんだか夢があってあれだけど、
こうもリアルに再現されると複雑な気分になる。
なぜ巨大芋虫もっと可愛い感じにしなかったんだ……!
そこまで忠実に再現しなくていいのに!

芋虫はのそそのと体をくねらせると。
ピクピク痙攣した。舞台の4人もぶっちゃけ頬が引き攣っている。
そして芋虫は醜い顔をルミー(アシャ役)へと向けると

……ベロン

舐めた。その途端客席からは声を絞り出したようなエグい悲鳴が積み重なっていった。もちろんその中の一つはなまえのものだ。リドルもさすがに若干眉をひそめている。

「リ、リ、リドル……」

なまえは舞台に目を向けたまま、グイグイとリドルの袖を引っ張った。
リドルはすでに冷静さを取り戻していて、いつものように澄ました顔をしてる。

「あれは……」

リドルが目を細め、その気持ち悪い生き物を冷静に見つめた。
リドルの脳裏に、「あれはもしかすると、アッシュワインダーではないか」と言う考えがよぎる。
しかし……
とてもそうには見えない。
なぜならそれは真っ赤に輝く目をした灰白色の細い蛇であるはずだからだ。
まさか、太らせ呪文を……?
しかしそれは、たしか禁止されていたはず―――

不意に、ピクリとリドルが表情をこわばらせた。

「アッシュワインダーは確か―――」
「え?ぅわっ!!」

リドルは突然、なまえの肩を掴むと地面に伏せた。
その途端、舞台が真っ赤に光った。
ブワリと強く吹き抜けた熱気が、2人の髪を後ろに流す。
途端に生徒たちの悲鳴が響き渡る。

二人が顔を起こすとそこには、さっきまでの美しい舞台など跡形もなく、
今この大広間は、煙と舞台装置の残骸と煙に埋められていた。
生徒は阿鼻叫喚の中、逃げ出すものもいた。

「な、な、何……?」
「爆発したんだよ。」

とんでもないリドルの発言に、バッとなまえが振り返った。

「しかもほら、卵を産んだようだ。」

恐る恐るなまえが舞台へと目を向ける。
そこには灼熱した巨大な卵が数個産みつけられ、しかも舞台の床を燃やしている。

「あの卵は、愛の媚薬として非常に価値があるんだ」
「それどころじゃないよてかなんでそんなに冷静なの!?」

驚き声を荒げるなまえの頬を、リドルは無言で摘まんだ。
タコのような口になったなまえが痛い痛い!ともがいている。
今、なまえは何にも悪い事をしていなかった。まさに理不尽と言えよう。しかもリドルちょっぴり楽しそうだ。

「何よ!どういうことなのよっ!!」

突然、物凄い悲鳴が響いた。
思わず2人は舞台に目を向ける。

見るとエイミー(アマータ役)の人物が、ルミー(アシャ)役の生徒に掴みかかっていた。

「アマータとラックレク卿は、最後どうなる?」
「え?最後めでたく結ばれるよ?」

不意にリドルが聞いてきた。
なまえは戸惑いながらも、そう答えた。

「現実世界でも、エイミーとルビック(ラックレク卿役)は付き合っていた」
「あぁ、そういえば……」

美男美女で有名だったカップルは、それはそれはホグワーツのほとんどが知っているほど有名だった。よって、興味がないなまえの耳にも自然と入っていた。

「だとしたら配役した監督は相当の馬鹿だ」
「え?」

その言葉に、なまえが首を傾げる。
舞台でも、現実でも恋人同士のどこがいけないのか。

「ルビックはルミーに心移りをしている」
「え」

リドルはこのたった数分間の間で、まだ芽生えたばかりであろう恋心を鋭く見破ったのだ。鋭い洞察力とは実に恐ろしいものだ。
ハン、とリドルが笑った。

なまえはリドルの視線を辿るように目舞台に向けると、そこには突然決闘を始めたルミーとエイミーの姿。罵詈雑言をお互いに浴びせては、激しい呪文が飛び交っている。それを止めようとした監督のビリー先生は、十字砲火を浴びてしまった。

燃え盛る業火は今にも、大広間を包み込まんと言う勢いだ。ガシャン!とすごい音を立てて業火に飾られたクリスマスツリーが倒れる。

「……さあ、僕たちもそろそろ逃げないとね。」
「っわ!」

リドルは軽々しくなまえを持ち上げると走り出した。

「リ、リド―――」
「今日は特別さ。……報酬はたっぷりいただくよ」
「……ゑ?」



その後、その事件はホグワーツに深い爪痕を残した。
大広間は臭い煙のにおいが残ったし
ビーリー教授の頭が元の形に戻るのにもまだまだ時間がかかりそうだ。
おまけに病棟は人で溢れかえり、かつてない程の満員だった。

      
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