ハリポタ

□眠りにつく前の話
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「首、痛かった?」

不意になまえが、聞いてきた。
そう首の近くで話されると本当にくすぐったい。

「結構ね。」

本気で噛んだのではないかと言うくらいに
痛かった。

「そんなに?」

キョロリとこちらを見上げ、なまえが首をかしげた。
必然的に、上目遣いになっている。
その表情は、無邪気と言う言葉がよく似合う。


「―――試してみる?」


答えを聞く前に、
なまえを押し倒して今度は僕が跨がる。

僕の下で髪を散らせ、キヨトンとこちらを見上げる姿に、
ゆっくりと口元が弧を描く。

細く、白い首が
とても美味しそうに見えた。

吸血鬼はきっと、こんな気持ちなのだろうか。


吸い付くように顔を埋め、歯を立ててゆっくり噛みつく。
それは柔らかで暖かく、ほんのりと甘い。

堪能するように、
くすぐるように、

チロリと舌先を這わせては
唇で噛む。

なまえが肩を少し上げながら、笑った。

「っふふ、くすぐったいよー」

と笑いながら言って、背中に腕を回しながらポンポンと叩いた。
じゃれている、子供の様だ。(実際僕らは大人ではないけれど)

ゆっくりと、舌を這わせてみる

「――ふ、」

くすぐったそうに、首をすくめる。
なんだかその声が愛しくて、カリッと小さく噛んでみる。そしてそこに吸い付く。

そっと唇を離すと、
そこには白い肌に似合う、桃色のあとが残っていた。

あぁしまった。これではキスマークだ。

……なんて、
我ながら白々しい。

相変わらずなまえは
くすぐったそうに笑っている。

……もう一つ、付けてやろうか。
「僕だけのもの」という印を――

もう一度、カプリと噛みついた。



「あはは、くすぐったいってば」

……何だか
釈然としない反応だ。

本来は、吸血鬼ごっこだったのだ。当たり前と言えば当たり前の反応。
……その前に、本人は何をされたのか等と知るよしもない。

背中にまわされていた腕を外し、
ゆっくりとなまえの両手を絡み取り、
指を絡めてなまえの両頬の横に手をつく。

なまえはそれでも笑っている。

首にキスをおとしながら、
徐々に上へと移動してゆく。

そっと、片方の手を指から離し、なまえの髪をかき上げる。

そして、耳に噛みついた。






「――ふぁっ、」



甘いその反応に驚いて、思わず顔を離す。
見ればなまえが、トロンとした目をしていた。
しかしそれは、ほんの一瞬で
すぐにいつもの目に戻っていた。

なまえは僅かに細めていた目をパッチリと開け、キョトンとこちらを見つめてきた。

「あれ?リドル、顔赤いよ?」
「――っ!?」

嘘だと思うと同時に、
隠すようにボスリと倒れ込む。

……隠すようにと言うことは
自覚があるじゃないか……


「リドルー重いよー」

未だに離していない片手を
ニギニギとなまえが握る。

幾ら訴えようと、
僕は小さなその手を離したくない。

「ねーねー」

空いた方の手で
次はトントンと背中を叩く。
暫くは頭をつついたり、服を小さく引っ張ったりしていたが、やがて飽きたのか動かなくなった。


「リドルとオソロイだね」

不意になまえが、口を開いた。
何が、と口にする代わりに、チラリと視線を向けた。

「吸血鬼」
「あぁ、そうだね」

なまえがえへへと笑ったので、つられてほほが緩む。
ゆっくりと移動し、なまえの隣へ横たわる。

「でも吸血鬼は、弱点が多いね。」

なまえは天井へと手を掲げた。
僕はその華奢で白い小さな手を、なまえと同じように見ていた。

「朝が来ちゃうよ」

ポツリと呟いてパタン、と手を下ろしたなまえを
ふ、と鼻で笑った。

「一緒に何処かへ、逃げればいい」

どこに?
太陽が無いところさ
そんな所、きっと無いよ
ならば太陽を消せば良い
十字架は?
全て灰にしてしまおう
聖水は?
全て枯らすさ


――本当に、
本当にそんな世界が
あれば良いのに。

もしも本当に
君が吸血鬼になってしまったら
僕はそれらを迷わず実行する。

そして、二人だけの―――



「――でも、」

重たい口調に、思わず顔をなまえへ向ける。

「私はきっと、望まない」
「――……」

ゆっくりと瞬きをして、なまえは宙を見た。

「だって」

ふ、と唇が弧を描く。

「多くの犠牲は、望まないもん。」

やわらかに微笑んで、遠くを見るように
微かに目を細めそう言った。

その表情に、僕は、ギュッと、胸が締めつけられた。

儚いと、そう思った。
どこか遠くへ行っててしまいそうな

そしてその、なまえが行った先へ、
僕が足を踏み入れることは出来るのだろうか。



「――あぁ、そうか。君は――」








「でも夜はランデブー!」
「は、」

キリリとした表情で目を輝かせるなまえに、思いっきり呆けた顔になる。

先程の面影はもう何処にもなく、ただのアホなまえに戻っていた。


「ランデブーって……」
「だってリドルに会いたいもん」

不覚にも心臓が跳ねた
ケロッとした顔で言う。

「烏滸がましいよ、随分と。」

……こういった不意打ちは非常に苦手だ。

「ねぇ、リドル。私は」


星を数える時と同じような顔で
ぼんやりとしたような、難しい事とは程遠いような顔で
なまえが天井を見ながらそう言った。

どうせ、突然「おなかがすいた」とか
言うのだろう。
そんなことを思いながら、その言葉の続きを待つ。






「やっぱりずっと、リドルと居たいなぁ」
「―――な、」


へにゃりとした顔で笑うなまえ。
僕は目を見開いて、身が強張った。

頬が、熱くなってゆく。
こんな、こんなアホなまえに
僕の心臓が、不規則な動きをするなんて



「……図々しい。」

なまえの頬に手を当てて、思いっきり向こうへと押す。

きっと今、僕の顔は赤みを帯びているのだろう。
認めたくはないけれど、
まあ悪くないと、そう思える感覚かもしれない。
……認めないけど。

そんなことを思う癖に、
頬はただただ緩んでいく。

僕はなまえの不貞腐れたような声を聴きながら
緩む口元を結ぶことなく
そっと瞼を閉じた。


   
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