ムゲン

□指先とぬくもり2
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「相思相愛だから」


そう残したムゲンは、ふと目を伏せながら、踵を反す。靡いた髪の隙間から、細く華奢なうなじが覗いた。ザリ、と地面が小さな音を立てる。
その時――――








「、」







声にならない声が、確かに存在した。
リドルか、ムゲンか。
それはどちらのものとも見分けがつかない。
ただ―――





「リドル、君……?」





リドルはムゲンを、後ろから抱きしめていた。
ムゲンは目を丸くして、動けずにいる。
リドルはムゲンの肩、首筋に近い部分へと額を埋める。そしてさらに、強い力で抱きしめた。


何が何だかわからない。
率直な意見を思い浮かべたまま、ムゲンは瞳をぎこちなくリドルへ向けた。

しかし―――




なんとなく、その両腕を振り払えずに。



「うん――」



リドルの腕へ手を伸ばし、そっと力を込めた。




(意外と、あったかいんだな―――)



ムゲンは耳を澄ますかのように、目を伏せる。


(あ、でも。体温だから、当たり前か)


そんなことを思いながら。













***












……ゑ。
いつまで、こうしているのだろう。


ムゲンは疑問に満ちた目で、前を見ている。その瞼は何とも言えぬ絶妙な具合で半分閉じられていた。



―――いやいやいや。


流石のムゲンも、そんな事を思う。
後ろから抱きしめているリドル。さらにそのまま動かない。


何が何だか解らない。まあ、それは置いておくにしても足が痛い。腕に締め付けられて体が痛い。そして首筋の付け根辺りに押し付けられている額がくすぐったい。前髪があたる。そして地味に、重い。


ムゲンは悶々とそんな事を思う。


(そろそろ、そろそろ―――)


その時、突然リドルが体を引き剥がした。
バッと効果音が出そうな素早い動きに、ムゲンはよろけながら目を丸くする。
振り返ろうとした瞬間―――






「ぅ!?」






両肩を掴まれ、全力で阻止された。
乱暴な力に思わず声が漏れる。必死なのか何なのか、思いやりがない。――ああ、リドル君はそもそも“思いやり”なんか兼ね備えていないけど――


「あ、あの」


そう口を開きかけた瞬間。


「さあ、そろそろ僕は寝る」


ぞんざいな台詞。
え、とムゲンが口を開くよりも早く。


「君もそろそろ戻ったらどうだ、ムゲン。夜更かしは肌に悪いそうだ。さっさと寝ることだね。僕の前にガサガサの肌で現れたりされたら、目障りだ。」


そんな事を口にする。

反論どころか質問――否、反応をする間も無いまま、リドルは暗い校舎へと消えて行った。

口調が早い。地味に台詞が長い。そして立ち去るスピードも何気に速い。
何という傍若無人な態度。


――その間、一度も表情が見ることができなかった。




「……はあ……」




ムゲンはそんな曖昧な、返事の様な声を漏らした。
そしてポカンと、暗闇に消えたリドルの方向に目を向けていた。







              
















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ムゲンさん唖然。



   

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