白衣の帝王

□不意打ち変革
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ホグワーツの図書館は、中々広く、一階は一般的な書物が、二回はより専門的な資料や本がとそれなりに充実している。図書館家具や本は流石に新品同様とはいえないが、その年季の入った古めかしさが、独特のそしてややファンタジックな雰囲気を演出している。

机は、丁度アルファベットの「L」のような形で本棚に付属しているものに加え、数人で使用する事が出来るテーブルが大小数卓置いてある。


夜の図書館は基本的に、人が少ない。
一般的な書物は置いていない二階なんてものは、寂莫としている、といっても過言ではなかった。そんな場所に、一人の少女、なまえは足を運んでいた。


二階へ上った先にある、隠れた奥の奥の一角に、一卓のテーブルセットがある。小さめの、4人で使用するにはやや窮屈そうな大きさだ。そのため椅子も二脚しかない。
長年使われてきたのであろう、角はすっかり削れて丸くなり、光沢さえある。くたびれた外見は寂しさを感じさせると同時に、優しさもあった。


なまえは「お」と口を窄めながら、首を伸ばす。
そのひっそりとした一席に、レギュラスの姿を確認したからだ。

なまえはまっすぐ声をかけようとして、ふと立ち止まり、本棚に隠れた。どうせ声をかけるなら、驚かす方がおもしろいとかそんな埒も無いことを思ったのだ。そうなんでしょなまえさん。
そして案の定口角を上げ、「ふふん」と悪戯っぽい笑みを浮かべる。彼女は悪戯が好きなようだ。因みになまえさん、ジェームズとシリウスとよく一緒にいる所為で悪戯心を助長されているようにも見受けられる。

なまえはレギュラスから姿を捉えられないように、本棚に隠れながら後ろに回り込んだ。そしてくすぐったそうに脈を早めては、ジリジリとレギュラスの背中へにじり寄る。


さぁ
普段は感情をあまり表に出さない上に口数が少なく冷静沈着感が否めないレギュラス君よ!
君の驚いた時の声を聞かせておくれ……!


なまえが、なんだか魔女っぽい笑みでそっと両手を上げたとき―――



「何やってるんですか、先輩」



振り返りもせず、レギュラスが言った。
なまえは驚いた表情になり、ほんの一瞬固まった。
かと思うと途端に、目を丸くしたまま訝しげに眉を上げては、バッと後ろから素早くレギュラスの顔をのぞき込んだ。
レギュラスは突然のことに、ほんの少し目を丸くする。

「な、何ですか」
「寝言かと思った」
「……普通『気づかれた』と最初に考えません?」
「その発想はなかったよ」
「あぁ……そうですか。」

あははと笑うなまえに、『そうですよねなまえ先輩ですものね』とレギュラスは心の中でそう呟いた。


「ところで、何やってんの?」
「少し気になる事があったので、調べ物を」
「(偉いなぁ)」


なまえは「ほぇー」と気の抜ける声を出しながら感心した。
その間、
なまえが『私がここにいては邪魔になら無いか』と尋ねる前に察し、隣の席に置いていた本を無言のまま然り気無く退かし、座るように促す紳士レギュラス君。

「どうぞ」と椅子を引かれ、なまえはほんの少し驚いた後「ありがとう」と素直に座った。


「レギュって、なんか凄いね」
「?」
「気が利くって言うか、なんていうか、」
「なまえ先輩だからですよ」
「?」


しれっとした表情で呟いたレギュラスの横顔を、なまえは不思議そうに眺めた。


「先輩は、どうしてここに?」


突然目が合って、なまえはパチリと瞬きをする。そしてその質問内容に、みるみる得意げな顔になった。


「今日は珍しく怪我をしていないからね!」
「……?善く解りませんが、取り敢えず奇跡だと言うことだけは理解しました」
「どういうこと!?」


―――レギュラスは理解力が好かった。


「先輩って、そのうち取り返しのつかない大怪我とかしそうですよね。」
「ちょ!?私こう見えても運動神経悪くないし、そう惨事に至る事は無いと思うよ。―――あと死なない。」
「最後の一言に至っては、運動神経関係なくないですか?」

ごもっともだ。

「でもまあ、ある程度大な怪我をしたとしても、処置をするのはリドル先生ですから、大丈夫でしょう。」


一瞬ドキッとした。
他人の口からその名を聞くと……何か変な感じがする。
それにしても、少し気になる口振りだ。


「リドル先生って……そんなにすごいの?」
「たまに医者として下にある村で働いているくらいですよ?」
「え!?」


そうだったのか……!
っていうか初耳なんですけど、どういうことなのリドル先生!!
そう言えばこの間、急用とか何とかで居なくなってたけど……それもそうなのかな?



「因みに、このホグワーツの卒業生です」


なまえはパチリと、瞬きをする。

「えぇ!?そうだったの!?」
「……知らなかったんですか?」
「初めて聞いた」

って言うか何で「知ってて当然でしょう?」みたいな口振りなの。


「リドル先生は頭脳明晰、成績優秀、まさに秀外恵中だったそうです」
「あー……そんな感じする。」

そして今でもそんな感じする。
……中身はあんなだけどな!!


「よって、卒業後の学校では、2学年も飛び級したそうですね」
「―――ブッ!!」


余りの衝撃に、なまえは吹いた。


「何ですか」
「え、いや、だってそれ……凄くない?」
「凄いですよ」
「え、ちょ……凄くない?」
「凄いです」


レギュラスは例の如く単調だ。
その横でなまえはふと、レギュラスを見る。


「っていうか何か……詳しいね」
「あぁ、何故なら僕は―――リドル先生のファンですから」


レギュラスはなまえへ向き直り、涼しい表情でそう言った。
その表情は和らいでいて、眼に輝きを灯しているように見えないこともない事も無い事も無い事もない。

なまえは―――

なまえはふと、俯いた。
そしてポン、とレギュラスの肩に手を置き、顔を上げる。

宇宙の果てを見詰める様な、虚ろな目。
柔らかく唇が、弧を描く。


「―――幸あれ」
「何ですか急に。っていうか凄い目ですよなまえ先輩。」


※円環の園を見詰める目でした


「因みにここの席は、」

そう言ってレギュラスは、机をそっと撫でる。


「リドル先生がよく使っていた席だそうです」
「ホントどこまでもファンだね!!」
「これは余り知られていない情報です……悪用しないでくださいね」


悪用ってどういうことだよ!!
っていうかそんな目で見なくとも悪用なんてしないよ!

鋭い視線のレギュにそんなことを思いながら、ふと辺りを見渡してみる。
本当にひっそりとした場所にある席だ。
こういう所を穴場、というのかもしれない。普段女の子に囲まれてしまっている先生にとっては特にそうなのかも。
……そう思ってみると、先生も中々大変だなー。



―――リドル先生。
そう言えば今日、一度も見てないなぁ。
雑用もせずに済んだし。


なまえはそこまで考えると、頬杖を付いた姿勢から、ふと得意げな笑みが零れた。


そうだよそうなのだよ、諸君!
私は今日雑用をしていない!
つまり一切、一ッ切怪我をしていないのだ!
終始を気を張り詰めてそりゃあもう血眼で危険を察知していたおかげで、一日完膚を守り通せた。

※その際尋常じゃないオーラを放っていたので、隣に居たシリウス君はピリピリSAN値を削られていました。




そこで突然なまえは、覚めたようにハッとした。
「あっ」と口を大きく開けて、レギュラスの方を向いたなまえ。
不意に脳裏へ浮かぶのは、




レギュラスに借りていた、マフラー。




突然滝のように冷や汗を流し始めたなまえに、レギュラスは首を傾げる。


「?どうしたのですか?」
「へッ!?あ、その、マママ、マフラー……」
「マフラー?……あぁ、この間貸した物、ですか?」
「そそそ、そう!そう、なんだけど……」

なまえは斜め下を見ながら、引き攣っている。
やがて意を決したようにグッと目を瞑ると、一気に口を開いた。




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