白衣の帝王
□先生は先生だって
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「ちょ、ちょちょちょなまえちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!」
バァン!!と勢い良く開いた扉の音と大声に、思わずベッドから跳ね起きる。1尺2寸は浮いたね。(※約36センチですどういうことなんですかなまえさん。)
「な、な、な何奴じゃ!?」
「どこの武将!?って、そうじゃなくって!」
突如現れたのは、なまえと同じグリフィンドール寮のクラスメイトだった。今は慌ただしく落ち着きがないけれど、どこか大人しそうでやわらかい雰囲気を持っている。短く丸い髪型をしていて、そばかすが可愛らしい。
「ゲホッ、お、お知らせに……ゴホッ」
モクモクと煙が立っている。扉も蝶番が壊れてしまったのか、傾いている。……っていうかどんだけフルパワーで入室してんすかこの子。なまえは寝起きが弱いので、未だぼんやりとしている。
「えっとー……名前ー……」
「アニーです、アニー」
「兄ー」
「あ、兄じゃないよ!?」
アニーは膝に両手をついて息を整えていた姿勢から片手だけをわたわたと振った。そして息を整えたところで顔を上げては、ワクワクした表情になる。
「わぁ、ほんとに一人部屋なんだね」
アニーは瞬きをしてキョロキョロと部屋を見渡した。
鈴蘭型の照明に、大きな窓。グリフィンドールの色である赤を中心とした絨毯に、勉強机。元々学生用の部屋として作られたわけではないのか、他の生徒の部屋よりは豪華な印象を受ける。
「確か部屋が空いてなかったから、なまえちゃんだけ一人部屋になったんだよね。それにしても広いn―――」
そこで初めて、アニーはなまえを見た。
その姿に目を見開いて石化する。
両眼に映るのは、ベッドにペタンと座り込んでいるなまえの姿。肩の開いたネグリジェから白い肌が覗いている。半分に伏せられた瞳に、長い睫。はらりと片方の紐が落ち、滑らかな肩が露出する。眠そうに寝ぼけ眼を擦る、その幼い仕草が独特の雰囲気を作っている。別に、格段に色気のある体つき、という訳ではないし、艶かしい表情であるわけではない。あるわけではない、が―――
「ななな悩ましいッ!!」
「ふぇっ?」
「悩ましいよなまえちゃん!!ちょ、なまえちゃん!!」
「おおおおお落ち着け!」
ちょ、マジでこの人何しに来たの!?(※なまえは一気に目が覚めました。)
赤面して両手で顔を隠すアニー。なまえは落ち付かせようと慌ててアニーにヘッドロックを決めた。なまえ曰く、血液の循環を悪くして顔を青くすれば、嫌でも落ち着く筈だ!と配慮した結果らしい。
***
「だ、大丈夫?」
「うん。ごめんね?ちょっとトチったみたい。」
「(ん?)」
「はぁ……どうしてカメラ持ってこなかったのかな……」
「……うん!?」
「ああ、そんなことよりね」
アニーは何事もなかったように徐に立ち上がる。
「なまえちゃん宛にね、なんだか大きな荷物が届いてるの」
なまえはその言葉に、「え゙」と顔を歪ませた。何やら嫌な予感がするらしい。
「とにかく、確認しといて?ああ、そのまま着替えなくても―――いや、やっぱり着替えたほうが……」
一人で険しい顔をしてブツブツと呟くアニーは、なまえが首を傾げていることに気付くと
「あ!いえ、なんでもないよ。じゃ、じゃあ、談話室に置いてあるから!」
慌ててそう残しては颯爽とドアへ向かう。そして扉から出て行く寸前でくるりと振り返り
「あ!それからね、今日は朝から急遽補習が入ったんだって!えっと……あぁ!?あと20分しかない!あぁ、でも、先生には一応なまえちゃんは遅れるかもって話しておくから!だからごはんちゃんと食べてね!ピーマンも!!」
と早口で付け足し去って行った。寝起きで頭も働いていない上に物凄い早口で言われたため、正直あんまり聞いてなかったなまえは「うーん?」と首を傾げながら
―――二度寝するか迷った。
※ただし『ピーマン』と言う単語だけは耳聡く聞き逃さない。
***
誰もいなくなった談話室に、のんびりとなまえが入ってきた。ジェームズと俺(シリウス)は女子寮には入れないので、たまたまそこに居たアニーとかいう奴を捕まえて呼びに言ってもらったのだ。
なまえは身支度は済ませているものの、まだ眠いのか目を擦っている。左側の毛先の一部だけぴょんと跳ねていた。発芽米みたいだな、と思っていると隣でジェームズが「発芽米みたいだね」と呟いたのでどうして良いのか解らなかった。(笑えばいいと思うよ。アメリカのコメディアン風に。)
なまえは俺たちを見つけるなり「ん?」と首を傾げた。やっぱり眠いのか仕草がゆったりだ。
「あれっ?シリウスに、ジェームズ?」
「おう」
「おっはよう!!」
いきなり飛びついたジェームズを避けきれず、なまえは「ぐぇ」と声を漏らした。
「補習は?」
「行くわけねーだろ」
「つまんないし」
即答してもなまえはなまえでゆったりと伸びをしていた。あ、こいつも行かないつもりだな。
「これ、なまえ宛みたいだぞ。」
そう言って足下においてある箱を指さした。改めてそれ見ると……デカい。その上3つある。全面真っ黒で、金色の文字で「Dear,なまえ」とだけ書かれていた。(無論差出人の名は書かれていない。)右斜め上がりで上品な書体。名前の最期に紅の薔薇が描かれている。怪しい、というよりは、不思議と上品な印象を受けた。
なまえはその箱を視界に入れるなり、ピタリと固まった。そしてなまえは眉を寄せて口を尖らせ、その箱へと近づいて行く。
「何故かレイブンクローの寮に届いたらしい」
「だから運んどいたよ」
なまえは「ありがとう」と呟きながらもどこか上の空で箱を凝視していた。ジェームズがなまえの頭に手を置いたまま、その箱を覗き込む。
「開けないのかい?」
「開け…………ぬん」
「どっちだよ」
なまえは渋い表情のまま、箱に手を掛けた。
「開ける、開けるけど、さ」
「?」
「一回、開けるなり花火が打ちあがったことがあったんだよ……」
「「!?」」
光の無い目で微笑するなまえを、思わず二度見した。
S「だ、大丈夫だったのか?」
N「天井焦げたよ」
S「!?」
J「そ、それは大変だな!」
S「何ワクワクした表情で言ってんだよ」
ジェームズへと思わず呆れた視線を送る。なまえは「わんぱくだね、わんぱく」と呟いていた。わんぱ……まぁ、あながち間違いではないか。(つい癖でツッコみそうになったシリウス君。)
なまえはそっと、手に力を込める。ゴクリと固唾を呑んで、勢いよく開けた。
「―――!」
が、
別段何が起こるわけでもなく(起こると困るけど)、中身を包んだ包装紙の上に、一枚の手紙が入っていた。なまえは首を傾げつつも手紙を広げている。
人の手紙をのぞき込むもんじゃないな、と目をそらす横でジェームズはガッツリのぞき込んでいたのでそのモジャモジャを掴んでやった。何でこいつは何の躊躇いもないんだよ。
なまえは手紙の一行目を読むなり『ペソン!』と閉じてしまった。(……?)そして再会してしばらく読んだ後、妙に落ち着いた動作でそっと閉じた。目に一点の光も燈っていない上に微笑んでいたのは気のせいだろうか。ジェームズは興味津々になまえへ寄った。
「何々?何か脅迫上とかそんな感じ?」
「いや……違うけど……読む?」
いいのか?と言いつつも何となく受け取ってしまった。
ジェームズと共に文へと目を向ける。
『メリークリスマス!』
そこで一度手紙を閉じた。
酷い、時差を見た……(※今は3月です)
そうか。なまえが一度手紙を閉じたのはここだったのか。そして神妙な顔つきで、再開する。
『って言うのは冗談よ。びっくりした?普通の挨拶じゃつまらないからって考えた挙句結局これに収まったの!因みになまえパパの案よ。素敵よねー。あぁ!それよりもまず!中々手紙送れなくてごめんね。住所解らなくて当てずっぽうでバンバン送ってたらやっと尻尾を掴んだわ!ど根性よね。一応箱の中身の説明!大きい箱の二つにはお洋服を拵えておいたわ。一つは母さんから、もう一つは父さんから。もう一つの箱は、なまえの愛用品よ。今回送ったものがあなたの役に立つと嬉しいわ。愛を込めて。お母さんより』
……色々とおかしくね!?あれだろ。ツッコんだら負けなんだろ。
スルー出来ない事も記してあった気がしたけど俺は知れない。いいか、俺は知らない。(※大事な所です)
妙に落ち着いた動作でそっと手紙を閉じる俺の隣で、ジェームズは笑っていた。
***
「うわっ」
箱を空けるなり、なまえは苦い顔をした。
中に入っているのは、いかにも女の子と言った感じの服だった。なまえは「お母さんからだ」と呟きながらそのうちの一着を取り出して、掲げてみる。甘過ぎるデザインであるわけではなく、むしろ好印象を与える可愛らしさにもかかわらず、なまえは抵抗を感じるらしい。
「おぉ、可愛いじゃないか!」
「そうかなー……」
ニコニコと笑うジェームズの横でなまえは「うーん」と口を尖らせながら、取り敢えず自分に服を当てている。不意になまえが「変じゃない?」と眉を寄せて首を傾げながら、くるりとシリウスの方を向いた。突然の事に、シリウスは息を詰まらせる。
「え、あー……」
……似合っている。正直似合っている。
見慣れない、女の子らしいなまえに不覚にも心臓が波打った。
こういった場合は、何と答えたらいいのか解っているのに、女が喜ぶようなセリフも仕草も知っているというのに……何故かなまえにはそれらが出来ない。造作もない筈なのに。『可愛い』『似合ってる』なんて極簡単な、短い言葉。しかもこの場合はお世辞なんかじゃない。なのに……
口元に手を当て、しばらく言葉を濁していたが、やがてそっと口を開く。
「その……可愛い、と、思―――」
「じゃあこれジェームズにあげる」
何でだよ!?
見ればなまえは「へいパーす」なんて言いながらジェームズに渡している。
J「えー、でもサイズ合わないしー」
S「(合ったら着るのか……!?)」
N「じゃーシリウスにあげる」
S「俺はもっと合わねェよ!」
着ろってか!?っていうかサイズの問題じゃねぇよ、俺!!
……違う。
俺が思ってた展開と全然違う……!(※通常運行です。)
なまえはタコのような口で「ちぇー」と言いながら箱に戻した。何でちょっと残念そうなんだよ。
そして「私はこっちのが好き」と言ってもう一つの箱を撫でた。えへへ、と微笑んでいる。なまえは箱を空けずとも、どういう物が入ってるかわかるらしかった。
「こっちは何がはいってるんだい?」
最後の箱を指差すジェームズに、「あーそれはね、」となまえが言った。
「愛用品だよ」
「愛用品?」
そこでなまえは、不敵にニヤリと笑った。影のある、怪しい笑みだ。絶対ロクなことが起きない。なまえは「ふふふ、」と笑い声を漏らして勢いよく中身を取り出した。
N「じゃーん!」
取り出されたのは、2丁の銃だった。一つは拳銃で、もう一つはライフルのようなものだった。
J「ほ、本物?」
N「まさか。偽物だよ」
なまえは肩に乗せて構えると「ぱん」と口で言った。おどけた口調にも拘らず、どこか様になっている。
……ていうかなまえの両親は学校に何てもの送ってきてんだ!?
さっきの手紙といい、『これがなまえの両親だ』と言われると頷けないこともないけれど(フリーダム親子め)、何だか親としての感覚が普通の違うのではないかと疑ってしまう。しかも愛用品てどういうことなんだ。そんなことを考えていると、俺の視線に気づいたのか、なまえはこちらを見上げる。
N「殺傷能力は無いよ?」
S「あったらこえーよ!」
J「人を撃ったら、どうなるんだい?」
眉をひそめた俺の横で、ワクワクしながら尋ねるジェームズ。なまえはケロッとした表情で宙を見上げた。
N「うーん、穴は空かないだろうけど……赤いミミズ腫れが出来るだろうね」
S「……おっかねーな」
N「あ、近くで撃つと出血するかも」
S「お前、あっさりと凄い事言うよな」
N「Guns N'roses!!」
S「意味解n―――こっちに向けるな!ちょ、ジェームズお前もだッ!!」
『やだなー次元の真似だよ』となまえは笑った。
いや、次元って誰だよ。
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