白衣の帝王

□湖の畔で
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みなさーん、土日ですよー。
ホグワーツへの転校以来
初めての記念すべき休日でーすよー。


「春ですよー」みたいなノリで私は屋上から叫びたかった。
叫んでアルプス山脈の空のように澄み切った笑顔を振りまきたかった。
あの雲は私を待ってるからね。

なのに……


「なのに私に休みなんてないですよー!!!」


どういうことなの教えておじいさぁぁぁぁぁん!!!


と、
私は湖に顔突っ込んで(勿論綺麗な水)思いきりそう叫んでやった。

※実際は『ぼがぼぼがぶか』みたいな感じで
ちょっと何言ってるかわからないです。

叫ばずにはいられなかったけど叫んでもいられないので仕方なく水中で叫ぶとかナイスアイディア過ぎるけど叫んだ内容が泣ける。

丁度叫び終わってセルフエコーをつけていたら、突然肩を妙によそよそしく捕まれた。

ぷはっ、と水面から顔を上げると

「あ、リーマス」

『……どうコメントすれば良い?』みたいな顔したリーマスが居た。

「どうしたの?」
「いや、なまえが水に顔突っ込んで、凄い勢いでボコボコやってたから不安になって……いろんな意味で」

理解不能な上に不可解で気迫にあふれる演出でした。

「それにしても、こんなところで何してるの?」
「あーそれはー……」

なまえは斜め上を見上げ、今朝のことを思い出した。


***


「とふっ!!」

保健室へ入ろうとした瞬間、いきなり鼻を強打した。
べ、別に前を見てなかったわけじゃないよ!?扉が急に開いたんだッ!!

「ああ、丁度いいところに。」

余りの痛さに鼻を押さえて悶えていると、何食わぬ顔で先生が出てきた。謝らないのは通常運行なんでしょうね!ちくしょうめぇっ!

なまえはじっとりとした視線でリドルを見上げる。

「相変わらず愚鈍だね」

……出会いがしらに真っ黒ですね!
清い程にリドル先生ですね!!
―――っていうか、

「い、今のは先生のミスd―――」
「むしろ成功だよ」

何言ってんの!?
しかもキャンセルしやがった!!

フーッ!と威嚇するような視線で見上げるなまえをちらりと横目でとらえては、涼しい表情で視線を戻しながら、口を開いた。

「鼻血出てるよ。」
「ぅえっ!?うそっ!?」

その言葉に、あわてて押さえていた手を外し確認する。
……出てないじゃないか!嘘つき!!


「君を早速扱き使ってやろう―――と、言いたいところだけど、生憎急用が入った。」

カチャリ、と鍵を占める音がした。先生が言った言葉に、思わずパチリと瞬きをした。
ということは、今から出かけるということだろう。

「……急用?」
「内容を話すとでも?」

しょっぺぇ……!

リドルはなまえを見て微笑み(悪意しかない)ながらしょっぱい解答をした。

なまえは「んむむ」、と口を閉ざす。
そして、あることを思いついた。「とんだ朗報じゃないか!」と顔を綻ばせる。

「ということは!私は今日まるっきりフリーダm―――」
「午後3時、保健室へ来るように。」
「ゑ」

しょ、しょっぺぇ!!

「じゃ、僕は行く」
「え、ちょ」
「一秒でも遅れたら―――」

そこまで言って、リドルは去って行った。

……。
遅れたらなんだよ!!


***

「3時までね、3時までここで明鏡止水の心境に至ろうと思ってね」
「色々と意味が解らないよ」

リーマスは呆れたように首を振った後、クスクスと笑った。

「リーマスは?」
「僕はちょっと、勉強で行き詰っちゃってね、だから気分転換でもーっと思って」
「あー、ここ人いないし広いし、眺めいいもんね」

2人は木の幹によりかかり、広い湖、そして空を眺める。

「のどかだねー」
「うん。のどかだね」

朗らかな陽の光が照らし、青空を映した水面は大きな鏡のようで、キラキラと輝いている。流れる雲はゆったりと形を変えて行く。
二人はぼんやりと雲を目で追った。自然と表情が和らいでいる。

不意に、なまえが「あ」と口を開く。リーマスは「ん?」となまえに顔を向けた。

「ジェームズとシリウスは?」
「二人は今、罰を受けている最中だよ」
「うん?」

苦笑しながら言ったリーマスへとなまえが顔を向ける。

「またなんかしたの?」
「うん……どうやら、化学準備室から薬品盗んでは爆薬作って、実験用の蛙を爆発させようとしていたところ……見つかったらしい。」
「えげつなっ……!」

理不尽すぎる蛙さん可愛そうですね、とかもあるけど……
飛び散る臓物とか見て一体誰が得するんだ!?

※その蛙は、多分リアルで充実してました。


「その上逃げようとして無意味に爆発させたらしい。」
「え」
「室内だったから色々と大変だったみたいだよ……」
「一体、何が彼らを突き動かしてるの……」

なまえは儚い表情でそう呟いた。

「先生は相当怒ってるから、今日も明日も説教に反省文、掃除、課題、雑用と忙しいみたい。」
「休日じゃなくてもはや平日だね」
「自業自得、なんだけどね」
「ですよねー」

……。
ですよねー!!!
私なんて悪いことしてないのにそれらを強いられていますからね!!

なまえは「は、ははっ」と頬を引き攣らせながら嘆いた。








「二人とも、」

不意に、静かな口調でリーマスが言った。
なまえが見上げたリーマスは、微笑んでいるのに、どこか寂しそうだった。


「二人とも、僕の言うことは聞いてくれないから、」



そっとリーマスが瞳を伏せる。
なまえはリーマスから視線を外し、水面を見た。
瞼を閉じて息を吸い、そっと目を開く。


「もしも私が―――」


青い瞳に光が反射して、
力強く揺れた。


「もし、私が何か間違った事とかしたら、さ」


リーマスの瞳が、なまえの瞳が
お互いを捕える。


「遠慮なく言ってね」


やがてなまえはふわりと、笑った。
リーマスは少し目を見開いて、

「―――うん。」

嬉しそうに、笑った。

「ありがとう、」と誰も聞き取れないほど小さな声で呟きながら


***


「リーマスってさ、あの二人といつ知り合ったの?」

不意になまえが、そう質問した。あの二人とは無論、ジェームズとシリウスの事だ。リーマスは「うーん」と言いながらぼんやりと宙を見上げる。

「そうだなぁ、ずーっと昔。小学生になる前、だったかな?」

リーマスは懐かしそうに、目を細める。

「よく、木に登っては二階の窓から遊びに来てくれていたよ」
「木?」
「うん。僕は、体が弱くてね、低学年の内は学校にも行けずずっと病院で過ごしてたんだ。」

リーマスは目を閉じて、思い出す。
消える事のない薬品のにおいに、清潔で無機質な白くシンプルな病室。

きっと僕は、酷い目をしていた。

見える景色と言えば
窓から覗く、大きな枝。

「ジェームズもシリウスもあの頃からすでに問題児でね。ジェームズは傍若無人、シリウスは家出少年だったんだ。」

リーマスは2人の悪戯っぽい笑顔を思い出す。

「最初はびっくりして、野生の猿かと思ったよ。」

「僕の病室にお客さんなんて来ないし、同年代の知り合いなんていなかったからね」と付け加え、リーマスはクスクスと屈託なく笑った。
少し困ったような、くすぐったそうな、けれども嬉しそうな笑顔。

「サイズ的にはオランウータンだね」

なまえもそんなリーマスの表情を見て、笑った。
でもね、なまえさん。ツッコむ所を間違えてると思うんだ。

「それはもしかして、こんな感じ?」

不意に頭上から声がして、
見上げれば―――




「猿だぁ!!」
「いや違うくね!?」



指を指して大きな声で言ったなまえに、間髪入れずシリウスが訂正した。その横でジェームズが笑っている。

J「せめてモモンガあたりが良いな」
S「それでいいのかジェームズ……!」
N「そこはシマウマでしょ!」
S「シマウマが木に登ってるってどういうことなんだ!?」

木から慣れた動きで飛び降りるのは、見慣れた2人の姿。ジェームズに、シリウスだ。2人とも罰則から逃げて隠れていたらしかった。リーマスは予想外の出来事に目を丸くし、なまえは「私も木に登りたいなー」とか考えていた。

「い、いつから居たの?」
「ずーっとさ。下りたくても中々降りれなくてね。ほら、あっちに小さくだけど、フィルチの姿が見えてただろう?」
「ああ、そういえば」

隣に腰を降ろしたジェームズが指差した方向を、リーマスが見る。なまえは「え、うそ」と全然気づいていなかった様子だ。

S「随分懐かしい話だな。」
J「あの頃もなかなか楽しかったなぁ」

うんうんと腕を組んで頷きながら言ったジェームズに、シリウスもフッと笑った。




「いいね、そういうの」



なまえが前を向いたまま、ポツリと呟いた。
ジェームズは少し目を丸くして、なまえを見る。

「なまえはあまりそう言う経験がないのかい?」

無遠慮なジェームズの口を、シリウスが慌てて押えた。
けれどもなまえは何も気にしていない様子で、いつもの様な表情をしている。

「うん。私本当に転校ばっかりだったし、色々あったりで、幼い頃友達と遊んだ記憶がほとんどないんだよねー」
「そうなの?」
「うん」

なまえは何ともない表情で笑った。

思い出すのは広いお屋敷に、おもちゃの山、本、家庭教師―――


「だから、そういうのって憧れるよ」

その時初めて、なまえの瞳がほんの少しだけ揺れた。
遠くを見ている瞳は、ほんの少し細められていて、どこか儚げで―――
ジェームズにはその横顔が、寂しそうに見えた。



「ばっかだなーなまえは!」
「っ!?」



突然、ジェームズがなまえの首に腕を回し引き寄せた。あまりに突然の事になまえはよろけ、すっぽりとジェームズの腕の中に納まる。

「考えてみなよ、僕たちの一生は約100年もあるんだぞ?そんな中たった10年20年出会うのが遅れたからって、何も変わらないじゃないか!この先嫌でも付き合うことになるんだから」

大きな手でわしゃわしゃとなまえの頭を撫でながら、ジェームズが言った。
なまえの目が、大きく見開かれる。


それは、つまり―――
この先も一生、ずっと……




「ありが、とう―――」



上手く声が出せずに、かすれたものとなってしまったのに

「うん!」

しっかりと聞いてくれた上に、ギュッと抱きしめてくれた。

肩を叩かれたり、頬をつねられたり、
ジェームズ、シリウス、リーマスにつられて、いつの間にか私も笑っていた。



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