白衣の帝王
□種明かし
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レギュは「寮まで送ります」と言ってくれたけど、私がグリフィンドールと知るや否や、何かこう……複雑怪奇な表情をしたので、私は校内に用事があるということにしてはあれやこれやと誤魔化して、とりあえず校内を歩くことにした。
試しに「グリフィンドールの教室に……」と言ってみたところ、クワッと例の表情になったので「あっ、この人グリフィンドールアレルギーだな」と確信した。(何やってんすかなまえさん。)
それにしても、この学校は寮別に団結力が高い分、一部だけど他寮に対して差別意識があるようだ。それが意図的な教育方針なのか否かは知らないけど……ネクタイ交換すればどこに居ようと変わらないんじゃないかな?(※そう簡単には行かないと思います。)
ギイ、と扉を開いて校舎に侵入した。勿論人の気配は一切ない。見慣れた校舎であるはずなのに、月明かりに照らされている光景は普段とは雰囲気が全く異なるためか、何だか幻想的に見える。
……とは言え、夜の校舎はとても怖い。ホラー的な意味で。その上一人きりなのだ。
でもその反面テンションあがったりもする。夜の校舎ってなんかテンションあがるよね!!(ですね。)
勿論、リドル先生に遭遇したらどうしようかと思うと心細いけれど。
思わず、レギュが貸してくれたマフラーを握り締めた。そこで「あ」と、気付きたくないことに気付いてしまった。校内でマフラー外さなきゃいけないんだっけ?(なまえはピンポイントで律儀になるときがある)
マフラーあったかいし、お守りみたいな感じで外したくないんだけど……
ダメかなぁ……
なまえは「ちぇー」とタコのような口でいじけながら、マフラーを外していった。
……が、
「―――どうしてこうなった。」
どう言う訳か両手を拘束された人みたいに絡まってしまうという有様。……結構キツく絡まっているあたりが器用ですね。
ええい、この、と呟き、歩きながらモゴモゴと両手を動かす。
一歩踏み出したとき……
「そぉん!!」
何故かそこに、小さなボールが落ちていた。
綺麗にそれを踏んだなまえはものすごい勢い(残像が現れるレベル)で
ぐぎゃん!!と理解不能な効果音を出しながら前のめりに回転し、
不自由な両手ではとっさに手を付くことも叶わず―――
「まそっぷ!!」
某ソードマスターの様な声を上げながら
すごい音を立ててビターン!!と、うつ伏せに倒れた。
シーンと静寂が包む中、なまえはピクピクと痙攣する。
そしてムクリと、徐に立ち上がる。徐に。生まれたての小鹿の様にガクガクしながら。
その姿勢は前のめりで、拘束された手はダランと垂れている。もう痛すぎて色々それ所じゃないらしい。
そしてフラフラと非常に頼りない足取りで曲がり角を曲がったとき―――
突然、誰かにぶつかった。
なまえはぶつかってはよろめいたかと思うと、強く後ろに引き寄せられた。そしてそのまま壁へ背中から投げ出され、強打したかと思うと、反動ではねる前に、首を上から腕で押さえつける。
荒々しい扱い。
なまえは壊れた人形のように、妙に成されるがままだった。
(拘束+痛み+混乱+驚愕のため言葉さえでません。)
「奇遇だね?」
犯人は、言うまでもなく
リドルだった。
スっと顔を上げたなまえを見て
口を封じようと伸ばされたリドルの手が、ピタリと止まった。
なまえを凝視していた目が、わずかに見開かれる。
「せんせっ……私、泣いでいいでずがっ!」
マフラー絡んで拘束された形になっては何故そこにあるのか全く理解できないボールを綺麗に踏んづけて両手で受け身をとることのできない恐怖を不本意ながら堪能して地面に叩きつけられてめっちゃ痛くてそれでも這い上がるかのように耐えて立ち上がってフラフラしながらも頑張って歩いた矢先に一番遭いたくないリドル先生に遭遇してもう……
計ったかのような負のスパイラル。
なまえはもう……いっぱいいっぱいだった。
「……もう泣いてるじゃないか。」
リドルは、涙目で額から血を流しては何かもうボロボロで見るに忍びなく痛ましいなまえの姿とその表情に
……閉口した。
***
「君は……どうしてこうも怪我が絶えないんだ。」
薬品棚に薬を直しながら、チラリと横目でなまえを見た。
額に張った大きなガーゼの方を見上げながら、指で掻いている。
「とか言いつつ、手当はしてくれるんですね」
現に今、なまえの処置を終えたところだ。
リドルは無言でス、となまえの額にあるガーゼを触ると
「いででででっ!!」
思い切り押した。
なまえは生理的な涙を目に浮かべる。
「なっ何するんですか!!」
「感謝しなよ。僕は今日、機嫌が良いんだ。」
リドルがクイと口角を上げた。
その言葉に、なまえが「ゑ」と声を漏らした。
……機嫌悪かったら手当てせずに放置ってことですか!?(はいそうです。)
っていうか機嫌良いとか言いながら怪我が悪化するようなことするんですか意味解りませんよ!?
なまえは両手をガーゼに当ててガードしながら、困惑した表情でリドルを見た。
「わ、私だって怪我したくてしてるわけじゃないです!不本意なんです!」
「故意に怪我する人間はいない」
……正論です!
正論ですけどっ!!
「……じゃあ先生は、足下に何の脈絡もなくボールが落ちているとしてそれを避けれますか?」
「僕は足元を見て歩く。」
不貞腐れたような表情のなまえを横目に、
リドルは呆れたように、強く言った。
何ですかその小説のサブタイトルみたいな一文は。
なまえは現実逃避としてその小説の内容でも考えることにしてみた。
『僕の周りには、常にボールプール並にボールが転がっている。』……駄目だ意味わかんないどういう状況なの。
即行で止めた。
「―――さて、」
薬品を仕舞い終えたところで
不意にリドルが、口を開いた。
なまえは少し肩をビクつかせながら、リドルを見た。
リドルの形のいい唇が、ゆっくりと弧を描く。
「これらの事全てが、僕の計算だったと言ったら―――どうする?」
「え―――?」
なまえの瞳が、見開いた。
どういう、ことだろう……?
「これらの事」とは、つまりなまえが体験した保健室での出来事の事だ。
でも、そんなの、
そんなのは、
「―――仮定の、話ですよね?」
なまえは表情を強張らせながら、リドルを見上げた。
声が震えていた。
―――そんなのって、あり得ない。
そう思ったからだ。
けれどもリドルは、何も答えなかった。
不安な表情で見上げるなまえを横目で捕えながら、スッと目を細め、見つめた。
なまえの表情を愉しむかのような、視線。
そして
「――――種明かしをしよう。」
なまえの瞳を、正面から捕えた。
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