白衣の帝王

□リリー
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「次の授業が楽っしみっだなぁー!」

鼻歌交じりに上機嫌なジェームズを見て、なまえがクイクイとリーマスの裾を引っ張る。リーマスは「ん?」と愛想のいい仕草で隣に並ぶなまえへ耳を寄せる。

N「どうしてあんなに上機嫌なの?」
R「ああ、それはね、次の美術の授業が寮別学年合同で、たまたまリリーちゃんと一緒だからだよ。」

リーマスは微笑みながら言った。
極自然にかなまえの頭を撫でながら。

S「といっても、教室が隣になるだけだけどな」
N「リリー、ちゃん……?」
J「リリーとは!」

リリーという単語に耳聡く振り返ったジェームズが、ビシッと指を指す。リーマスが可愛らしく首を傾げながらボソッと「その指は、へし折れってことかな?」と言ったのを、シリウスは聞き逃さなかった。

J「名前の通り美しくも可憐で―――僕の女神、天使、マドンナさ!」
S「せめて一つに絞れよ……」

肩を竦めたシリウスの呆れた視線を、ジェームズは華麗に躱(かわ)しくるりと回転しては再び前を向く。

「そう!ちょうどあのように深みのかかった赤毛が美し―――ってリリーじゃないか!」

ジェームズのセンサーは並みじゃなかった。

振り返った先に運悪く居合わせた少女が、驚きながら振り返る。緑色の瞳がとても綺麗で、大人っぽい外見の少女だ。アーモンド形の目が特徴的だ。
その少女は声の主がジェームズだと確信するや否や、みるみる整った顔を思い切り歪ませていく。……歪めすぎじゃね?

「御目に掛かれて光栄だよ、―――あぁ、今日も一段と美しいね」

ジェームズはどこか気取った動きでリリーの手をそっと握る。
リリーの周りに居た友達が、年上でデカくて異様な雰囲気を醸し出すジェームズに脅え、固まって数歩下がった。怯えるよね、そりゃあ。

「触らな―――」
「うん、今日も見事にツンツンだね!」
「ちょ、何髪なでt―――」
「はは!照れ隠しかい?可愛い―――」

リリーが毒々しい顔つきでジェームズを睨み、拳を強く握った時―――

「たぁぁぁぁん!!」
「ぶぐふっ!!」

ジェームズが床にめり込んだ。
リリーは急に倒れ込んだジェームズを驚いて、そっと拳を引っ込めた。倒れるジェームズを避ける過程で、思わず自分も尻餅をついてしまった。隣でうつ伏せに倒れ、ピクピクと痙攣しているジェームズ。頭に大きなたんこぶが出来ている。

無論、自分が殴ったわけではない。……じゃあ、一体、誰が―――?

S「(あ、また『たぁん』って言った)」
R「わーなまえかっこいいよー!」


―――なまえ?
リーマスから発せられた聞き覚えのない名前に、リリーが首を傾げた。


「―――大丈夫?」



優しい声に、リリーは目を丸くした。

……実際、
こう毎度毎度しつこく絡まれても、誰も助けてくれなかった。皆見て見ぬふりをして、何もなかったかのように過ごすのだ。友人は皆、口をつぐんで、気の毒そうな顔をする。
そりゃあ、リーマス先輩やシリウス先輩が強制連行してくれることはあったけれど、
それ以外は、誰も―――

……仕方のないことだとは分かっている。解っている。


―――でも



スッと差し出された、手。
白くて、華奢ではあるけれど、とても頼もしく見えた。



「―――え、えぇ、ありが―――」


顔を上げたリリーは、思わず目を見開いた。

サラリと揺れる黒髪に、優しく細められた青く、硝子球の様に綺麗な瞳。

窓から差し込む光を浴びて、白い肌はふんわりと輝いている。


その柔らかく、屈託のない笑顔。


舞い上がる誇りがキラキラと光り
神々しいまでに眩しく、優しく、淡く―――



―――目が、あった。



「え、えぇっとッ!その!ああ、ありがとう、ございます」
「?どうしたの?」
「い、いえ!いいえ!何でも、ない、です。」


赤くなった少女を見て、なまえは不思議そうに首を傾げた。


「―――あの、」
「ん?」
「なまえ―――先輩と、いうのですか……?」
「あぁ、面倒だからなまえって呼んで。ちなみに敬語厳禁!私、堅苦しいの嫌いだから」

にっかりと笑う眩しい笑顔に、リリーがひるんだ。

「―――じゃあ、私の事も」
「ん?」
「私の事も、リリーって呼んで!」
「うん、わかった」

嬉しそうに、リリーは微笑む。

「ジェームズに何かされたら、遠慮なく私に言ってね!リリー」

その言葉に、リリーは心臓が高鳴った。
高揚感に息がつまり、窒息してしまいそうになる。



「―――じゃ!私たちはこっちの教室だから。」

そう言って、ジェームズを引きずりながら教室へと消えていくなまえ。
リリーはいつまでも、ベルが鳴るまでいつまでも、その後ろ姿を眺めていた。


―――なまえ、か。


前を向いたままヒラヒラと手を後姿を、
いつまでも胸に想い描きながら。












「……」
「……」
「ねぇ、シリウス……」
「……ん?」
「……どうでも、いいんだけどさ」
「お、う」
「……彼女の名前、リリー(百合)だったよね?」
「……」

「……どうでも、いいんだけど、ね」
「お……おう……」


最早恍惚の表情で、なまえが居なくなってもなお見つめるリリーを見ながら、シリウスもリーマスも形容しがたい表情で呆然と立っていた。





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