白衣の帝王

□セブルス
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前略。
突然運んでいたダンボールが吹っ飛んだ。

ピンポイントで見事にパァン!と命中したサッカーボールは、例の如くコロコロと転がった。なまえはしばらく状況が読み込めないようで、何もなくなった両手を見つめていた。小さめの段ボールなのと軽いことがせめてもの救いだ。


何故、なまえがダンボールを運んでいるのかと言うと、あの社会の先生みたいな感じで生物学の先生に「これ温室に運んでおいて」と言われたからだ。中身は種らしい。

因みになまえさん、一緒にサッカーしないかとジェームズ達に誘われたけど断った結果パシられました。

サッカーボールとか押し付けられる感じとかデジャヴのオンパレードですねなまえさん。めげるななまえさん。


「ごめーん!それこっちに蹴ってくれないかーい?」


ボールが飛んできた方を見れば、ブンブンと手を振る姿。距離が離れていて、小さくしか見えない。クシャクシャ頭。あ、ジェームズじゃん。

なまえは「はいはーい!」と元気良く手を振りかえしてサッカーボールを地面に設置する。

S「大丈夫なのか?結構離れてるけど……」
J「届くかな?」
N「いくよー?どっこい……ショォ!!」
SJ「「!?」」

カッと目を見開いたなまえは、渾身の力でボールを蹴った。
物凄い音を立てながら飛んできては綺麗にゴールへ入ったボールに、シリウスとジェームズは目を丸くした。数人が爆風受けたかのように吹っ飛んでいる。シュートを受け止めたゴールの網から煙が出ている。某超次元サッカーの様だ。

なまえは何事もなかったかのようにダンボールを抱えると、温室のある林の奥へと消えて行った。

S「……あいつ、すげーな」
J「うん……」

二人はしばらく、なまえの元居た場所を呆然と眺めていた。


***

「おぉ!」

なまえは林の中にある温室の近くで、ベンチが置いてあるのを発見した。そこは芝生の広場になっていて、中央に大きな木が植えてある。それを囲むようにベンチが置いてあるのだ。昨日は雨だったので濡れた枯葉が覆いかぶさっているそれらは、一見使えなさそうだったが、そのうちの一つだけ、どういう訳か濡れていなかった。

なまえは折角だから休もうと、そこへ座った。


―――それにしても、シリウスもジェームズも元気だなぁ

なまえは元気にサッカーをしている姿を見て、ぼんやりとそんなことを思った。リーマスは多分、室内で本でも読んでいると思う。それに、午前は雨だったので芝生の上とは言えべちゃべちゃしてるし。あと寒いし!

なまえはたっぷりと巻いた長いマフラーに首を埋めた。なまえはどちらかと言うと、寒がりなのだ。


「―――ん?」


あったかいなーと一人幸せそうに和んでいたなまえは、自分の据わっているベンチの隣に誰かが立っていることに気付いた。
ほんの少しクセのかかった黒髪を、肩まで伸ばしている。若干俯きかげんな為、長い前髪がはらりと顔にかかっている。分厚い本を抱え込んで、じっとなまえを見ていた。ネクタイの色が緑色なので、スリザリン寮なのだろう。

「……」
「あ、ここ座る?」

他のベンチは使えないし、と言いながら和やかな表情でポンポンと自分の隣を叩いたなまえを見て、彼は酷く驚い目を丸くした。

「……いいの、か?」
「うん?勿論」

それでもしばらく立ち尽くしていた。無表情でじっとなまえ見つめている。それはまるで、警戒しているような視線だった。

あれ?聞こえてなかったのかな?そんなに見つめたらベンチさんに穴開いちゃうよ。
……あ、もしかして狭いのかな?2人用の小さなベンチだし。

なまえはそう思い至るなり、少しでも広くなるようにと精一杯端に寄った。

「……そんなに嫌なんだ。」
「――へ?」

刺々しい口調とは裏腹に、
彼は無表情だった。

「―――だったら最初から声掛けなきゃいいのに。慣れてるけ―――っ、!?」


寄り添ってピッタリとくっついてきたなまえ。

予想外の行動に、再び目を丸くして、しばらく言葉が上手く出なかった。それでも平常心を取り戻そうと、無表情を必死に作った。


「……何故寄る。」
「だって勘違いされたもん」

彼はしどろもどろになり、思わずなまえを見た。


―――初めて、目が合った。


慣れない感覚に、すぐさま目をそらし、反対側の地面を見た。


「……わ、わかったから、その……近すぎる」
「……」










「な、何故更に寄る!」
「あったかいもん。」
「はあ!?」
「今夜は冷えるだろねー」

全く予測できないなまえの動きに、彼はひたすら困窮した。
なまえはというと呑気に空を見上げては、ふあ、と欠伸をしている。

そんな様子を見て、しばらく視線を泳がせていたが、やがて膝元へと落ち着けた。
暫く黙っていた彼の、表情が曇る。そして重々しく口が開かれた。

「……離れなくて良いのか」

キョトンとした表情で、なまえは「なんで?」と言った。

「君は、僕を知らないのか?」
「いやぁ、それが転校してきたばっかりなもんで」

その言葉に、彼は「ああ、成る程」と呟いた。


―――だから、皆みたいに僕を避けたりは……


寄せられた眉が、なまえには悲しそうに見えた。

「君は知らないようだから言うけど、僕といれば、君だって――」
「気にしないよ、そんなこと」
「――!」

相変わらずのんびりとした口調だった。
妙に慎重ぶったり、真剣な口調へ繕ったりしない。
それどころか、ごく自然で―――
そんななまえに、彼は息を詰まらせる。


そして半ばやけくそに口を開いた。

「そんな社交辞令とかいらな―――」
「うりゃあ!」

その言葉に突然なまえは彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。当然ながら彼は目を丸くして「な、な、」と声を漏らした。やがて頭に酸素が回らなくなったところで、大きき口を開いては、自暴的な口調で言った


「……僕はっ!僕は、こんな、皆が嫌うような暗い本を読んでるし、あまり人とかかわるのが苦手で暗くて―――」


そんな人間なんだって知らないから、
気にしないなんて言えるんだ。
だから―――






「なんだっていいじゃないか!」




明るく空へ向けて言ったなまえに、彼は怯んだ。


―――どうでもいいと、関係ないと、そういうことだろうか。
関係ないというのは、単に、関わりたくないとか、知ったこっちゃないとか、そんな感じの―――


そう、いくらでも考えられるというのに、可能性はあるというのに、
……不思議と、そう思う気にはなれなかった。


「――そう、か」


気付けばそう、認めてしまっていて。


いつの間にか、鼓動が早まっていて
顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
心臓が掴まれたような、ヘンな感覚。

余裕が全て奪われていくような、
くすぐったくてもどかしく、苦しくて
そのくせ勝手に口角が上がって―――



……ああ、もう。一体何なんだ。



「寒いの?」

顔を覗き込んで来たなまえに、心臓が驚くくらいに跳ねた。

悟られないようにと、顔をそらす。人に弱みを見せるとロクなことが起きない。(これを弱みと言うのかは知らないけど)


「……別に」
「でも顔赤いよ?」

一体どうすればいいのかわからなくなって、思わず声を荒げる。

「!からかうの――か、」

けれどもまたもや威勢をへし折られる。
フワリと首に巻かれた、暖かいもの。

「はい!半分こマフラー!」
「だ、から、近――」
「これで暖かいね!」

えへへと、こいつはあどけない表情で笑う。

「……勝手に、しろ」

あーもう

「……お前と居ると調子が狂う」
「なまえ」
「―――は」
「なまえって名前なんだ」
「そんなの、知らな―――」
「ふふふ、残念でしたー!私の名前を知った瞬間から『なまえ』と呼ぶ義務が与えられるのです!」
「―――そ、」

そんなの、知らない、し……

「―――なまえ、」

とか言いつつ、呼んでしまっている自分が憎い。

「君は?」
「……は、」
「名前だよ」

人に名前を尋ねられるのは、なんだか慣れていない。

「……セブルス・スネイプ」
「OKセブセブ」
「!な、なんだそれは」
「愛称」
「あ、あい、しょ……!?」

馴染みの無い響きに、セブルスは顔が熱くなった。
そして出来るだけ愛想なく呟く。

「……やめろ、よ」
「やだ」

あっさりと即答したなまえに、息を詰まらせる。

「あーもう!じゃあせめてセブに―――」

自分の言葉に、自分で恥ずかしくなった。見ればなまえが目を丸くしているもんだから、余計に赤くなり、硬直してしまった。

「セブ?うん!良いね!」
「……勝手にしろよ、もう。」
「あいむベリーぐらっド」
「……たまに発音酷いな」
「いやぁ、母国語は英語じゃないからね」
「そう、なのか?」
「うん。こっからずーっと東に行った島国。日本。っていっても、お母さんはまた別の国出身なんだけどね。だから眼の色、青いでしょ?」

そう言って、なまえはこちらに瞳を向けた。
硝子球の様で、綺麗だった。吸い込まれるような強い青に、思わす息が詰まる。

息が出来なくなる前に、目をそらした。





「あぁー!」

突然叫んだなまえに、セブルスがビクリと震えた。
何事かと見れば、自分が読んでいた本を指さしている。

「これ、」

指さされたのは、呪術とか悪魔とか儀式とかそういった暗い内容が記された書物だ。思わずセブルスの表情が曇る。差別されると判断したからだ。


「……気持ち悪いだろ」
「全然?」
「!……お世辞なんか」
「ううん!そうじゃなくて、私ね、妖怪とか好きなんだ!よくそういう本読んでたし。だからね、西洋版の妖怪とか、すっごく興味あったんだ!」

愉しそうに言うなまえを、心底意外そうにセブルスは見た。
なまえが悪戯っぽく笑う。

「私って、『気持ち悪い?』」
「!―――そ!そんなことっ」
「それはよかった!」

目が合う。
セブルスは微笑むなまえから目をそらしながら、ギュッと本を抱いた。


……こんなふうに人と話したのは、長らく記憶にない。


「今度、おすすめの本とか教えてよ」
「……考え、とく。」
「約束ね」

なまえは楽しそうに空を見上げて笑った。
そんななまえの横顔をチラリと横目で見ながら
セブルスも、ほんの少し微笑んだ。



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因みにセブルス君、この後寮に戻っては恥ずかしさのあまりベッドにうつ伏せになり枕に顔をうずめて一晩悶え苦しんでいたそうです。


セブルスは根暗で疑い深くて猜疑心まみれだといいな。(罵ってないよ!)
無口で無愛想なのが根っこまで滲み込んでる可愛い暗い奴的なッHuuu!!
その所為か自分の肯定的な感情でさえ素直に認めようとはしないような人だといい。

※凡ミスで時間軸がずれてしまいました!リリーの前にセブルスでした。本来の時間軸は『覆される価値観』の前あたりですすみません。    

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