白衣の帝王
□ジェームズ
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前略。
突然運んでいたゴミ箱が吹っ飛んだ。
「―――ぅおわっ!?」
その衝撃と供になまえはひっくり返り、空中で数回舞う。(10点10点10点)
「―――んなっふ!!」
そして顔面からゴミ箱と共にすごい音を立ててダイナミック着地。
シーンと静まり返った人気のない人通りに、コロコロと転がるサッカーボール。
ゴミ箱とサッカーボールとうつ伏せのなまえ。
そう、シュールだ。
なまえはムクリと起き上がると座ったままの姿勢で額を抑え、痛そうに俯く。
そこにかぶさるのは、犯人であろう人物の影。
「どうだ楽しいだろ?」
その声に、なまえは顔を上げる。メガネに、くしゃくしゃの黒髪。
「……何がッ!?楽しいも何も私被害者なだけですからっ!何ちょっと誤魔化そうとしてるんですか。正直意味不明ですよ!その台詞」
『この人は何を言っているんだ』という表情でギャンギャン訴えるなまえに、その人物はやれやれと肩を竦めて笑った。
「一緒に遊んでただろ?」
……何事件を歪曲して一緒に遊んで戯れていましたがちょっと怪我しちゃいました的なノリでまるっと収めようとしてんの!?
「強引すぎるよ!こちとらものすごい音と供にひっくり返っただけだし!」
「オトトトーモニ」
「うんそうだね『ト』が多くて面白いね」
もうやだこの人……
なまえはリアルに涙目になってきた。
話が全然通じない上に会話が成り立ってないこの現状。なまえがぐすんと鼻を鳴らしていると遠くから別の声が聞こえてきた。慌ただしく走ってきて、そこに座り込んでいる人物を見るなり目を丸くする。
「大丈……ってなまえ――?」
「ぐすっ、シリウス……」
シリウスはペタンと尻餅をついているなまえを見た。
涙目で見上げるなまえ。
当然のことながら、上目遣いになっている。
ペタンと座り込んだ状態で、太腿と太腿の間に両手をついていて、さらに名前まで呼ぶなまえに、思わず頬が熱く――
「―――美味しいとか、おもったでしょ」
「っ!?」
耳元でリーマスに囁かれ、一気に現実に引き戻される。
はっ、べ、別に美味しいとかおもってねーし。
「え?この子と知り合いなのかい?シリウス」
キョトンとした顔で尋ねるジェームズに、シリウスは頭を掻きながら「おう」、と言った。
言葉足らずなシリウスに、リーマスが補足する。
「そう。ほら、例の妙な時期に来た転校生。因みに僕の後ろの席で、シリウスの隣の席だよ、可愛そうだけど」
あはは、とやわらかい笑顔のリーマスに「可哀想って何だ!?」とシリウスが吠える。
「そうなんだ!いやあ、悪いことしたね。……立てる?」
「え、あ、うん」
スッと差し出された手を、なまえがおずおずと掴む。
……以外に、紳士なのかな?
J「いやぁ、早く起こさないと太ももが悩ましかったからさ」
N「(……あっ、そっちの紳士でしたか。)」
S「……」
R「もー、ケダモノどもめ。……特にシリウス(ボソッ)」
S「な、俺は何も言ってねぇし」
実はリーマスの言葉にヒヤッとしたシリウス君。
「うーん、それにしても……」
なまえがポンポンとお尻をはたいていると、何やら難しい顔で顎に手を当ててはジェームズが唸った。当然なまえは「?」と首を傾げる。
数秒間うーんと唸ってはなまえを凝視していたジェームズは、やがて「よし!」と何かを決心したように声を上げた。
「決めた!君、僕の妹になれ!」
突如ガバッと抱きつくと、ジェームズは高らかに笑いながらワシャワシャとなまえの頭を撫でた。なまえは何が起こったのかもわからずひたすら某ロボットの様に「ゑ?ゑ?」と声を漏らす。
「……妹にしてあげよう!」
「綺麗に言い直しても駄目ですから!ってか言い直しても上から目線―――」
「僕一人っ子だったから妹欲しかったんだよね!」
「知りませんよ!?」
「いいじゃないか同じ髪の色だし」
「え!?もう……えぇ!?」
何が何だか分かんないなまえを好き放題に撫でては頬擦りするジェームズ。なまえは「遺伝子レベルで無理ですからー!」と必死で抵抗している。
シリウスは呆れ返ったように頬に一筋の汗を流しながら、リーマスはニコニコと笑顔で、その強引すぎる光景を眺めていた。
「……なぁ、アレどうすればいい?」
「えー、ほっといていいんじゃないかな?」
意外な答えにシリウスは目を丸くして、自分よりも背の低いリーマスを見下ろす。
「だって見なよ、ほら―――」
す、とリーマスはなまえの方へと指を指す。
「あの困り切った顔。―――たまんないでしょ?」
ふふふ、と実に愉快そうで真黒な笑顔に、シリウスは戦慄を覚えた。
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ジェームズはなまえのお兄ちゃんになりたひ。