白衣の帝王

□リーマス・シリウス
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うぅぅー……と廊下で唸りながら、教室を目指す。
頭痛い。頭痛いしなんか気持ちわるい!

今更襲う吐き気と頭痛に顔をしかめる。先生の忠告は聞くべきだったかもしれない。

不機嫌オーラ丸出しの私を見て、すれ違う人々はたいてい振り返るか引き攣りながら避けて行った。もしかしたら私の周りには、ドンヨリとした人魂がひょろひょろと飛んでいるのかも。ふふふ、もっと逃げるがいいさ!
(※辛すぎておかしくなってます)

騒がしい廊下や話し声を聞きながら、そういえば今から昼休みかぁとぼんやり思った。寝よう。教室着いたらマッハで寝よう。

よろよろとドアを開けて、教室に入っていった。

「だ、大丈夫?」

クラスメイトちゃんに話しかけられ、へーきへーきと返しておいた。

「そ、そう?ああ、さっきね、席替えがあったの」
「席替え?」
「うん、でね、なまえちゃんの席はあそこになったよ」

額を抑えたまま、指さした方向に目を向ける。
途端にパァっと表情が華やぐ。なぜならそこは、窓際の一番後ろの席だからだ。

「窓際のおしりっ!!」
「(お、おしり!?)」

はしゃいだ後で頭痛に襲われ、後悔した。


***

「(それにしても、シリウスもジェームズも遅いなぁ……。)」

リーマスは窓に背を向けて、横向きに座り、ぼんやりと扉を眺めていた。

すると、とても優れない顔をした一人の少女が入ってきた。
クラスメイトと言葉を交わして、一気に華やいだかと思うとすぐさま沈んだ。額を押さえているから……頭が痛いのかな?
なんとなく目で追っていると、転校生ちゃんは、よろめきながら僕の後ろの席へと歩いてきた。

「(ここの席、なまえちゃんなのな?)」

俯いているため顔に掛かってはサラサラと揺れる前髪が、その人へ与える苦痛の度合いを物語っている。

そして倒れ込むように、案の定ふらりと僕の後ろの席に着いた。

「(あ、やっぱりなまえちゃんこの席なんだ)」

それにしても……

「大丈夫?」
「ふぇ?」

声を掛けると、気の抜けるような声を漏らし顔を上げた。そしてへロリと笑いながら(実際は笑顔だという判定を下すのが難しい表情)、パタンとまた伏せてしまった。
そして返事をする代わりに両手をパタパタした。

「うん。どっちかわからないよ。」

間髪入れずに思わずそう返すと、なまえちゃんは伏せたままくぐもった声で笑った。
そしてムクリと顔を起こした。

「私の前の席の人?」
「うん。僕はリーマス・ジョン・ルーピン。よろしく」

ニコリと笑えば、なまえちゃんは曖昧な表情でよろしく、と返した。

これは予想だけど、絶対この人、人の名前を覚えるのが苦手そう。

「私はなまえ。面倒だから呼び捨てで良いよ」

そう言いながら頬杖をついてはニッと笑った。そしてチラリと隣に目を向ける。
そこは空席で、誰も座っていない。

「私の隣の席って……誰?」
「シリウス・ブラックだよ」
「oh!あー、彼、彼女?ね!シ、シウ?……あのひとね!」
「絶対解ってないよね、君」

決定だ。この人は名前を覚えるのが苦手だ。……否、でも転校してきたばっかりだから、誰が誰だかまだ知らないだけかな?

どちらにせよ図星だったようで、なまえは妙にすがすがしい声で「善処します。」と言った。

「で、その人はどこ行ったの?」
「確か……職員室かな?」
「職員室?お昼休みなのに?」

首を傾げながらこちらを見上げたなまえに、無言のまま笑顔で対応した。

するとなまえはピクリと頬を引き攣らせたのち、上ずった声で

「あはは!要は聞かないほうが良いってことね!OK聞かないことにするよ!」


と一息で一気にそう言った。
あれ?なまえは察しが良いなぁ。

なまえは引き攣った表情のまま、あは、あはは、と強張った笑い方をした。
もしかして僕の笑顔、おかしかったのかな?(有無を言わせぬ絶対的な笑みでした。)

ざわざわと廊下がざわついたため、廊下に目を向ける。
ざわつきに混ざって、「おっと」とか「悪ィ」と言う声が混ざっている。シリウスの声だ。

そう認識すると同時に、ドアにシリウスの姿が現れた。走ってきたようで、僅かに息を切らしている。ドアに手を掛けたまま、何かを確認するように廊下の先の先へと目を向け首を伸ばしている。そしてサッと教室に入ると、一直線に自分の席へと走ってきて、ガタン!と荒々しく座った。こちらに体を向け、片腕は椅子の背もたれに、もう片腕は机に着き、頭を下へ向けて息を整えている。

「っは、あー、疲れた」
「お疲れ様。早かったね?」

シリウスは深呼吸の様に大きく息を吸って、ハッと鼻で笑う様に一気に吐いた。

「あぁ、何故なら―――」

ニヤリと笑いながらそこまで言いかけて、ピタリと固まった。

驚いたように、目を大きく開いている。
視線の先に居るなまえを見ると、なまえも同様ぽかんとした顔をしていた。

「おま――「あぁ!わんこ!!」はぁ!?」

シリウスを指さしながら、大きな声でそう言ったなまえに、シリウスも大きな声で思いっきり感嘆詞を漏らした。呆れと驚きと疑問をない交ぜにしたその声の裏に、僕には「ワン!」という効果音が聞こえた、気がする。

「ねぇ、リ、リー……」
「リーマス」
「リーマス!この人がなんとかさん!?」
「シリウス。シリウスブラックね。」

全く言えてないなまえに補足をする。

それにしても、あることを思いついた。
名前しか教えなければ、必然的に名前呼びさせる事が出来る。

「おい、わんこって何だよ」
「だって第一印象が犬なんだもん。今だから言えるけど」
「時軸全く関係なくね!?むしろ今はいうなよ!」
「でもあながち間違ってないよね」
「リーマス!?」

なんとなく僕も思ってたからね、犬っぽいって。
今度三回まわってワン!って言ってってみようかな?

「三回まわってワン!って言ってみて」
「(わお、言っちゃったよこの子。)」
「?何だそれ、どういう意味だ?」

シリウスはただクエスチョンマークを浮かべていた。そっか、この行為が『屈辱』を意味することを、シリウスは知らないんだ。

「僕もやってほしいなー、それ!」

思わず笑みをらしながら、なまえを見ると、なまえは口角を歪めながら笑っていた。色でたとえるなら、黒だ。

なんだか楽しい日々になりそうだ。

シリウスを余所に、2人で笑いながら、僕はそんなことを思った。

「良く分かんねーけど……飯にしね?」
「そうだね、なまえも一緒にどう?」
「(あれ、いつの間に呼び捨てに……)」

ニコリとなまえに微笑みかけたリーマスを見て、珍しいこともあるものだとシリウスは密かに思った。

「えっ?あー……あんまり食欲なくて……」
「そうなのか?」

なまえは「あとあんまり動きたくないかも」と付け足して困ったようにえへへと笑った。そういえば、なまえってば具合悪そうだった。
「すっかり忘れてた」と言ったなまえに、シリウスが「忘れてたってなんだよ」と言った。

「そっか……じゃあ屋上は無理だね」
「屋上!?」

ガタン!と立ち上がったなまえに、シリウスと共にのけぞりながら吃驚した。

「うん、今日は天気が良いから」
「!」
「あーあ、こんな日はさぞかし気持ちいんだろうな〜?」
「!!」

チラッとシリウスが誘導するように視線を向ける。その先でなまえは案の定、キラキラと目を輝かせていた。

「行くっ!絶対行く!!」

目を輝かせて元気に言ったなまえを見て、
シリウスと共に目を合わせては笑った。

「お前って、単純なんだな」と言ってなまえの頭を小突いたシリウスも普段は割と単純だと思うとか思ったことは、胸にしまっておこう。

「なまえって屋上とか、好きなの?」
「好きって言うか、憧れるっていうか……」
「憧れる?」
「だって前の学校では屋上閉鎖されてたから」
「!そうなのか?」

少し前を歩いていたシリウスが振り返る。
そんな学校もあるのかぁ。

「シリウスがその学校だったら、死んじゃうかもね」
「ああ、よくお世話になってるからな」
「そうなの?」
「まあな。お前も今度一緒に―――」
「おっと手が滑った」
「ぐほっ―――!」

そう言ってシリウスの脇腹をチョップする。
もー……すぐそうやってナンパするんだから。

「それに私、まだこの屋上行ったことないし!」

相変わらず宙を眺めては目を輝かせているなまえは、ワクワクしすぎて些細なことまで気が回らないらしい。それともスルーしただけなのかもしれないけど、取りあえず上出来だよ!
思わずニコリと微笑む。

「私、校内探検とか好きなんだぁ!」
「!そうなのか?」
「うん!」

シリウスがニッと笑った。なまえとは気が合いそうだと思ったらしい。シリウスは本を読んだりするよりは、体を動かすことの方が好きだからだ。

「なら今度、裏にある森に行ってみねぇ?」
「裏にある、森……?」
「あぁ、あそこには人がすくないし、おもしろそうだろ?」
「うん!行く!……でも迷子とか、ならないよね?」

なまえが不安そうにシリウスを見上げた。シリウスは少し得意げにニッと笑った。

「ホグワーツにおいて、知らない道はない」
「へぇ……!」
「……とかいいつつ、迷ったら面白いよね」
「リーマス!?」
「さ、着いたよ。」

息をのみ、大きなドアを見上げるなまえの背中に手を当て、扉を開けるようにとシリウスと二人で前へと促した。なまえは交互に僕とシリウスの顔を見たのち、ドアノブに手を掛ける。

そして一気にバン!と開く。
強い風が吹き抜けて、青空と、太陽の眩しさに目を細めた。

「わぁ……!」

なまえは何かに引かれるかのように前へ前へと足を進め、大空を仰ぎ見た。
そして両手を広げ大きく息を吸う。
なまえは数秒間そのまま動かなくなった後、クルリと振り返った。
そして、眩しい笑顔で楽しそうに笑った。

シリウスとお互いに驚いたような顔で見合わせて、
やがて一緒に笑った。


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