ムゲン

□一生の宝物
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美しい字の眩しいメモを頂いた次の日の事。


私はホグワーツ城から少し離れた芝生の木陰に腰を下ろしていた。そして昨日の紙切れを取り出し、“ムゲン・アトリエイリス”と記された部分を切り取り、太陽にかざしたりして眺める。
太陽の光で透けたそれに黒く整った文字が浮かび、私は眩しさに目を細める。すると



「そんなにお気に召したのかい?」



リドル君がそう言った。
彼は私と同じ木の幹に凭れていて、隣―――というよりは斜め後ろ位の位置に居る。少し振り返ってみると、リドル君は本に目を落としたままだった。


「うん―――」


私は再びそれを太陽に掲げ、目を細める。
燻る様に胸が躍って、自然と口角が上がる。




「私の、一生の、宝物なんだ。」




するとローブの摩擦する音がした。リドル君が私へ振り返るように、ズイと身を寄せたのだ。そしてそのまま顔を覗き込み、私の双眼を見詰めた。

その―――臆面も無く不審がる様な表情。
訝しむの度を超えて、むしろ僅かに憐みさえ含んでいるような。とにかく解せないものに直面した様な。


「“宝物”だって?」


え。そんな顔で問われましても……
私はさして動揺せず、いつもの調子で頷く。
手に持った紙切れの角度を変え、眺めながら。


「うん」
「その紙切れが?」
「うん」
「一生の宝物?」
「うん」
「何故?」
「とても綺麗な字だから」


するとリドル君は「ふぅん……?」と疑問丸出しの声で言う。そして、やはり腑に落ちないと言った具合に口を開く。



「でも、たったそれだけで――」
「それに、嬉しかったから」


紙切れから目を離しリドル君を見上げた。
パッチリと目が合えば、リドル君はまるで意表でも突かれたかの如く、極僅かに目を見開く。


そして急に、黙ってしまった。


しかしそれは時間に換算すると語句の僅かな時間。一枚の葉がはらりと、地面に降り、私はそちらに気を取られた。


「……本当に?」
「うん」


リドル君へ視線を戻しながら頷く。するとリドル君は少しの間、動かなかった。


「……」


しかしそれは一瞬の出来事で、次にはサッと元の位置に戻ってしまった。
その動かなかった時のリドル君は、思い返すと少し目を泳がせていたようにも思う。しかし確認のしようが無い為、よく判らない。

リドル君は再び本に没頭したのだろう。それ以上の言葉は無かった。
そわそわとした気配を感じた様な、感じないような。もしかするとそれは、頭上の枝や葉が、風にざわめいただけに過ぎないのかもしれない。
そして、何故かもう一度



「本気で、言っているのかい?」



と。

私は頷く。


……それにしても、そこまで確認する程に、“こいつ意味が解らないな”と思ったのだろうか。しかしまあ、どう思ったって私には関係ない事だ。半ば上の空だった私は、再び文字を眺める。

その時










「―――馬鹿じゃ、ないの」









風に攫われる程の、小さな声。
どこか弱弱しく、揺らいだような。


しかし文字に見惚れていた私には、あまり聞こえていなかった。



























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あまり聞こえていなかった、というより
あまり聞いていなかったムゲンさん(oh...)



             

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