ムゲン

□お掃除
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私は最近、気付いたことがある。彼の厭ぁな目に関する事だ。

まず一つ目が、彼のそんな目に気付く者が誰一人居ない理由。それは至極単純な事だった。誰も、そんな細かい所まで見ていない。たったそれだけの事だ。所詮、他人と言うかなんというか、まあ実に味気ない理由。(―――これ、優等生で自意識の高いリドル君にとっては屈辱的なのではないだろうか)

そして二つ目が、実は彼の目に気付いているものは居た!という事。
では、それは誰なのか。そんなの決まっている。リドル君を注意深く見ている人物―――つまり、彼に好意を持っている人間だ。
しかしそれを問題視しないのは、何だか自分が“とんでもない秘密”を知ってしまった気になって、恍惚としているのだ。私だけが知っている彼……!と、言った具合に、もう酔い痴れているのだ。




「と、言う訳だよワトソン君」
「誰がワトソンだ」



たったそれだけの事で偉そうに語るなこのゴミ虫、と、本を魔法で額に投げつけられてしまった。因みに超加速したため物凄く痛かった。そして勢いに負けて後ろへ吹き飛び一直線、そこに積んであった本の塔に後頭部から突っ込むという大惨事。塔は案の定崩壊し、私へ容赦なく覆いかぶさる。生き埋め事件だ。


「ご、ゴミ虫……」


私は本の山から顔だけを出し、額に刺さった本を抜く。リドル君は「フン」と少し鼻を鳴らした。


「何か今日機嫌悪いね」
「誰の所為だと思う?」


それは勿論、私の所為なのだろう。と、言えば今度は大量の生花が私の口につっこんで来た。水仙だったら死んでいたかもしれない。


「大体……君はどうしてこうもすぐに部屋を散らかすんだ」


そう、リドル君が不機嫌な理由はこれだった。
私の部屋が実に汚いと、ご立腹なさっているのだ。

因みに私は人数の都合から一人部屋を使用している。グリフィンドールのしかも女子寮へ、何故スリザリン寮男子生徒が居るのかといえば、私が問いたい。
そして何故彼がこの部屋を片付けているのかといえば、それこそ私が問いたい。

そもそも、
私の部屋が汚くったってリドル君には関係ないと、正直そう思う。しかし彼は勝手に片づけはじめてはぶつくさぶつくさ文句ばかり言っている。


「全く。また菓子箱か。本当に堕落しきっているねムゲン。そのまま怠惰に溺れて死ねばいいのに」
「って、あああ!それまだ入って」
「五月蠅い」


問答無用に捨てられていく―――というか、灰にされていくそれら。私はもう心の涙がとまりません。

しかし彼の手際の良さと美意識――私にとっては潔癖症――は感心するもので、彼が来てからというものの、約半分くらいが片付いた。

彼は少しため息を吐いて、額を手首で拭った。
その腕の、白さ。
窓から風が吹いて、カーテンが膨らむ。
朗らかな午後の光を、リドルの横顔を照らす。
長い睫や細かな黒い髪。そして宙の塵がキラキラと輝いて、私はぼうっと、多分見惚れた。


「リドル君ってさ」
「ん?」


話しかければ、リドル君がこちらを向く。


「腕捲り似合うね」
「あ?」
「さーせん。」
「フン」


即座に謝れば、鼻を鳴らした。しかし何故謝るべきだったのかは自分でもよく解らない。私はまたぼうっとその姿を見て、ぼんやりと口を開く。


「あとさ」
「ん?」
「世話好きなの?」
「あ?」
「さーせん。」


やっぱり何故謝らなくてはならなかったのか良く解らなかったけれど、触れると命に係わる気がして、私は黙って、本の山の中へ潜って行った。








     

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